庄司 海成さん
インタビュー公開日:2024.06.28

列車に電気を送る電線を張る工事。
当たり前に電車が走る日々を守る。
電車が走るためには、当然ですが電気が必要です。その電気を車両に供給するための電線(架線=「かせん」と呼ばれる設備)の修理・メンテナンスを日々、行うことが庄司海成さんの仕事です。
「電柱に設置し、架線を支える部材や可動ブラケットといった部品を、計画に沿って点検・交換していくことが業務の中心となっています。また、頻度はあまり多くないですが、架線そのものの張り替え工事を行うこともあります」
現場に出かける前の準備に忙しいなか、担当する業務についてていねいに教えてくれる庄司さん。まだ入社4年目ですが、落ち着いた語り口からは、仕事に対する誇り、充実感のようなものが感じられます。
「一般にはあまり知られず、目に触れる機会も少ない作業ですが、当たり前に電車が走る日々を守るために欠かせない仕事、という思いをもって業務にあたっています」
プライベートの時でも、電車の架線につい目がいってしまうという庄司さん。「職業病ですね」と笑います。
職場見学で触れた業務に興味を抱き、
鉄道というインフラを支える仕事へ。
工業大学で電気電子工学を専攻した庄司さん。その知識を活かし、メンテナンス系の仕事に就きたいと考えていたのだと話します。
「自分が表に出るのではなく、陰ながら誰かの、何かの役に立つ仕事がしたい。そんな思いを抱いていました。そのなかで、鉄道という重要なインフラを支える当社の仕事に興味を抱いたんです」
特に鉄道が好き、というわけではなかったそうですが、エレベーターのメンテナンス会社などにも目を向けるなか、弘栄電気に関心をもったのは、職場見学がひとつのきっかけだったそうです。
「業務時間である夜に現場に到着し、普段の仕事を見せていただきました。そこで、テキパキと動き、架線工事をこなしていくスタッフの姿が印象に残り、珍しく、かつ大きな意義を持つ仕事に惹かれました」
軌陸車(きりくしゃ)と呼ばれる、線路上を走れる車両のバケットに乗って行う高所作業には、〝自分にできるだろうか……〟という不安もあったと振り返りますが、今ではそれも当たり前の日常となっています。
一つひとつ仕事を覚えるとともに、
スキルアップを実感できる楽しさ。
電気については学んだものの、そもそも触れる機会の少ない仕事でもあり、架線工事については知識ゼロからのスタート。業務に必要なことは、現場で一つひとつ学んでいきました。
「交換する部品などをクレーンに掛けて揚げるために必要となるロープワークといった、基礎的なところから学びました。引っ張っても弛まないけれど、簡単に外すことのできる縛り方などを練習し、同時に、部品や道具の名前を覚えていきました」
現場で使う資材などを準備する際、倉庫でシミュレーションできる作業を繰り返し練習させてもらうなどしながら、先輩の指導のもと、着実に知識を身につけていくことができたと庄司さん。
「仕事を覚えると、それだけスムーズにできるようになり、スキルアップしていることを実感できるのが楽しいですね。当初は失敗もありましたが、そのなかで作業に必要なことに気付けるようになり、自信にもつながっていきました」
仕事は段取り八分などとよく言いますが、その段取りが見えるようになっていくことで、仕事ががぜん、おもしろくなっていったと話します
最終列車が出た後の深夜帯が業務時間。
学生時代のようで馴染みやすさを感じる。
架線工事は、最終列車が通り過ぎ、貨物列車も終了した後にスタートし、始発列車が動くまでの深夜〜朝方に行われます。
「日中に集まって資材などの準備を行い、一旦帰宅。仮眠をとって午後10時前後に出社し、現場へと出かけますが、その生活パターンに慣れるまでは、時間になっても起きられず、何度か寝坊もして……(笑)。ただ、夜の仕事だから辛い、と感じたことはなかったですね」
夏場は、深夜に作業用の照明をつけると虫が集まってきてしまう、といったこともあるものの、日中は真夏日でも夜間は涼しくなるので仕事はしやすいのだと庄司さん。聞けばなるほど、という話ばかりです。
「朝まで起きていて昼間に寝て、というパターンはある意味、学生時代のようでもあり、あまり違和感がなかったことも、仕事になじめた理由かもしれませんね」
もちろん、今の生活パターンは重要な仕事を担うためのものであり、大きな責任がともなうという点で、学生生活とは大きく異なります。
仲間として連携に加われるやりがい。
的確、迅速に業務をこなす先輩が目標。
「最近はもう、特別なことではなくなりましたが、初めて電柱に登り、架線を支える部品を交換した時のことは、今でもはっきり覚えています」
ひと通りの仕事を覚え、バケットに乗って行う部品の交換作業を任された際、自分の手によって老朽化した部品が真新しく、きれいな状態に変わっているのを目にし、達成感と感動を得たのだと庄司さんは話します。
「架線を支える電柱は、50mほどの間隔で立っています。作業の内容にもよりますが、ひと晩で電柱10本分=500mほどの作業を行うこともあります。作業員同士が声を掛け合い、連携しながら業務を行いますが、自分もやがて、仲間としてその連携に加われるようになった時にも、やりがいを感じました」
現場の状況に応じて、決められた業務を的確に、迅速にこなしている先輩のようになっていくことが目標と庄司さん。日々、新たな気持ちで仕事に取り組み、列車を利用する人々の安全性、快適性、そして定時性を支えています。次に電車に乗る機会にはきっと、庄司さんの顔が浮かんできそうです。
シゴトのフカボリ
電車線工事士の一日
12:00
出社、資材の積み込みなど、その日の作業の準備
14:00
帰宅、食事、睡眠
22:00
出社、現場へ移動
0:00
現場に到着、作業開始
5:00
作業終了、会社へ移動、帰宅
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

最初のうちは、現場に出ると作業手順がわからなくなったり、焦ってしまうこともありましたが、一つひとつの作業を繰り返していくなかで、自然にできるようになりました。そこでは、根気が大切なことを学びました。

お仕事データ

線路の「主治医」。
鉄道保線員
鉄道保線員とは
線路のゆがみやズレを直し、
列車の安全な走行をサポート。

列車の安全・安心な走行を支えるために線路の保守や点検などを行うのが鉄道保線員の仕事。線路の巡回によってゆがみやズレといった補修箇所を見つけたり、実際にレールを交換したり、いわば線路の「主治医」のような役割を担います。保守用車で軌道材料の運搬や軌道整備の修正を行うこともあり、車両の入れ替えを誘導するケースも。列車が通る合間を縫って作業が行われる場合もあるため、安全を確保することも大切な仕事です。

鉄道保線員に向いてる人って?
きめ細かで集中力があり、
チームワークを発揮するのが好きな人。

鉄道保線員は線路内で作業を行うため、安全に業務を行うための集中力が必要。複数人で協力しながら仕事を進めるため、チームワークも求められます。線路の小さな補修箇所も見逃さないためには、きめ細かな人柄も大切。また、重い機材や資材を運ぶこともあるため、体力に自信がある人も向いているでしょう。

鉄道保線員になるためには

鉄道保線員になるために、特に必要な資格や学歴はありません。高校、専門学校、短大、大学を卒業後、鉄道会社や保線専門企業に就職するのが一般的なルートです。多くの場合、新人研修を経て保線の業務に就くことになります。保線技術を一通り習得することで、役職者へとステップアップできる可能性もあります。

ワンポイントアドバイス
会社の規模によって、
すべての工程を経験できることも。

会社の規模によっては、工事計画の作成、点検・検査、作業現場の指揮監督など、専門分野ごとに分業化されていることもあります。小さな会社では、少人数で線路や橋、トンネルなどを管理することもある反面、すべての工程を経験できることから手応えも大きくなります。ただし、作業の大半は列車の運転本数が少ない深夜から早朝にかけて行われるため、夜間勤務が多くなるでしょう。