三上 貴征さん
インタビュー公開日:2022.09.30

道内屈指の酪農王国で、
プロ御用達の乳製品をつくる。
釧路から東へ約80キロ、車で1時間半ほどの場所に位置する浜中町。300以上の花が咲き乱れる霧多布(きりたっぷ)湿原や「ルパン三世」生みの親、モンキー・パンチ氏のふるさととして有名であり、道内屈指の酪農王国としても知られています。
「この地域の乳牛は、冷涼な気候や海からの塩分を含んだ草で育ち、放牧でのびのびと飼育されています。酪農家さんたちの技術も非常に高く、全国的にも高い評価の生乳が生産されているんです」
そう教えてくれたのは、浜中町にあるタカナシ乳業株式会社北海道工場で働く三上貴征さん。同社は神奈川県に本社を置く総合乳業メーカーです。
「道内で当社の製品を見かける機会は少ないかもしれませんが、首都圏の名だたるレストランやパティスリーでも使用されるクリームやバター、さらには某プレミアムアイスの原料も、実は当社で製造しています」
北海道工場は浜中町をはじめ根釧地域でとれた新鮮な生乳を加工し、道外5つの工場や首都圏のお客様へ届けるのがその役割。加工品の元となる脱脂濃縮乳やクリームといった原料を製造しているだけに、社内では「タカナシの心臓部」とも呼ばれているほど重要な工場だと言います。
生まれ育った地で
チーズ製造スタッフとして再出発!
三上さんはそんな工場の中でも、さらに「工場の心臓部」と呼ばれるコントロールルームに所属。まるで宇宙船のように正体不明の機械が並ぶ部屋です。
「今操作しているのが1tコンテナへの液供給。これが終わると各部署にCIPを指示し、その後は本州向けのローリーへ供給する製品の補填作業を行い…」
…つまりは生乳を受け入れ、加工し、出荷するまでの一連の指示をここで行っているのだとか。すっかりベテランといった様子の三上さんですが、10年前は別の仕事をしていたそうです。
「生まれも育ちも浜中町。高校卒業後は札幌の調理師専門学校へ進み、温泉旅館や飲食店で働いてきました。しかし社会人4年目の時に、勤め先の飲食店が店を畳むことになってしまったんです。ちょうど故郷での暮らしも恋しくなり、さらに新しい仕事にも挑戦してみたいと考えていた矢先の出来事。食と関われる仕事を探していた時に見つけたのが、ここの求人です。中でも、チーズの製造という全く想像が付かない仕事に興味をそそられ、再出発する決意を固めました」
こうして2012年に入社した三上さん。まずはフレッシュチーズの製造ラインへ配属になりました。
製造はまるで「実験」
奥が深い乳製品の世界。
ところで皆さんは、チーズの製造方法をご存じでしょうか。まずは生乳を殺菌後、乳酸菌やレンネットと呼ばれる酵素を加えて凝固させ、固形化した「カード」と液体の「ホエイ(乳清)」に分離します。このカードを濃縮させ、長時間かけて発酵や熟成を行ったのが、私たちが一般的にチーズと呼ぶ「熟成チーズ」です。
一方で「非熟成チーズ」とも呼ばれるのがフレッシュチーズ。カードやホエイを熟成させず、直接加工するという方法で製造されています。スイーツに使用するマスカルポーネやリコッタ、サラダ等で食べるモッツァレラがその代表格です。
「例えば、カードに熱湯を加えて練り上げたのがモッツァレラで、ホエイを加熱してつくるのがリコッタ。乳製品は同じ素材でも熱や脂肪分などの条件で自在に姿を変えるという特徴があり、その製造はまるで化学実験です」
その面白さにすっかり魅了されたという三上さん。さらに、余計な手を加えない生乳の味を生かした製品という事もあり、技量が問われる点にもやりがいを感じたと言います。
「機械を使っての作業とはいえ、やはり大切なのは人の手。技術や知識をどこまでも追求する奥深さは、料理にも通じるところがあります」
工場の設備や
交流関係もアップデート!
工場での仕事は製造だけに留まらないと三上さん。タカナシ乳業では「KAIZEN(改善)」と呼ばれる活動があり、文字通り従業員一人ひとりが安全で働きやすい職場づくりに取り組んでいるのだそうです。その内容はデスクワークのみならず、作業台で手を動かす事も多いのだとか。
「ある時、工場で働く女性社員やパートさんから重い製品を運ぶのが大変だという声がありました。すると先輩たちが空いている時間を使って運搬道具や、一時的に荷物を置く台、事故防止の柵まで自作したんです。乳製品の製造だけでなく、鉄の加工や溶接までできる会社なんだと驚きました(笑)」
こうした活動の背景には従業員同士の仲の良さがあると話を続けます。
「北海道工場で働く約160名のスタッフのうち、100名ほどは全国を転勤する正社員です。単身で来ても孤立しないように交流の機会が多く、社内サークルも10以上あり、盛んに活動を行っています。従業員同士の距離が近いからこそ、みんなで働きやすく、楽しいように改善するという文化が根付いているのではないでしょうか」
仕事も家族での暮らしも
満喫できる環境。
社内サークルはカヌーやキャンプ、登山といったアウトドアが中心とのこと。道外から転勤してくる社員も多いだけに、北海道らしさを全力で楽しめるようなサークルが充実しているそうです。三上さんは「休みの日にわざわざ釧路まで遊びに出掛けたりするほど、仲が良いんです」と笑います。
「最近はコロナ禍でお休みしていますが、以前は浜中町のお祭りやイベントにも積極的に参加するなど、地域との交流も積極的に行ってきました。私が幼い頃は『何の工場だろう』と思っていましたが、今はみなさんが『タカナシさん』と呼んでくださっています」
入社当時は独身だった三上さんも、今では2児の父親。数年前には町内に念願のマイホームも建て、充実した暮らしをしていると言います。
「ここは人口5000人ちょっとに対し、牛が2万頭以上というまさに『人より牛が多い町』です。しかし、自然豊かで食べ物は美味しく、子供たちとのんびり過ごすにはぴったりだと思っています。この町でこれだけ充実した暮らしを営めているのは、タカナシに勤めているからだと身に沁みて感じているんです」
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

自分でチャレンジしてみる事も大切ですが、人の経験談を聞くのも成長につながります。自分の知らない場所から来た人や、未経験の仕事をしてきた人と積極的に交流して、自らの世界を広げてみましょう!

シゴトのフカボリ
乳製品製造スタッフの一日
5:30
出勤
作業交替・引き継ぎ
5:45
製造
6:45
休憩(1回目)
7:00
原乳の搬入
タンクの切り替え
製造
10:00
昼休憩
11:00
製造
12:30
休憩(2回目)
12:45
遅番への引き継ぎ
14:00
機械のメンテナンス
退勤

タカナシ乳業株式会社 北海道工場

神奈川県横浜市に本社を置く総合乳業メーカー。全国6カ所に工場を持つ。北海道工場は昭和57年に操業し、クリームやチーズなど加工品や原料を製造している。

住所
北海道厚岸郡浜中町茶内栄44
URL
https://www.takanashi-milk.co.jp/

お仕事データ

多くの人においしさを!
食品製造スタッフ
食品製造スタッフとは
食材の下処理や加熱、調理を行い、
たくさんの「ウマい」をつくる!

食品メーカーをはじめとする企業の工場で、お弁当やお菓子、パン、水産加工品、麺などの食品を手がけるのが食品製造スタッフ。大規模な工場では機械化が進み、食材の洗浄や下処理、加熱、調味、包装など工程ごとに生産ラインを分けて作業を行っています。食品の種類や工場によっては手作業を大切にする企業もあり、職人のようにパンやスイーツをつくる食品製造スタッフも少なくありません。家庭の食卓でよく見かける商品を手がけるケースでは、広くおいしさを届けられるやりがいが感じられます。

食品製造スタッフに向いてる人って?
コツコツ型で衛生面にも気を配れる、
「食」が好きな人。

食品製造スタッフは、当然のことながら「食」が好きな人に向いている仕事です。機械や調理器具などをきれいに洗浄したり、自らの身だしなみを徹底的に整えたりしなければならないため、衛生面に最大限の気遣いができることも必要です。また、製造の際には正確な作業を繰り返さなければならないため、いわゆる「コツコツ型」にも面白い仕事に映るでしょう。

食品製造スタッフになるためには

食品製造スタッフになるために必要な資格や学歴はありません。高校や専門学校、短大・大学卒業後、食品メーカーなどの採用試験を受けて、合格するのが一般的なルートです。未経験からチャレンジできる職場も多く、アルバイトやパートスタッフとして働いて、正社員登用の道のりを歩む人も少なくありません。ある程度経験を積むことで部門のリーダーや工場長へのステップアップも可能です。

ワンポイントアドバイス
気温や湿度、食材の品質など、
日々の変化によって小さな工夫を。

現在では機械化された工場が多いものの、やはり人の「感覚」もおいしさを左右する大きな要因の一つです。その日の気温や湿度を肌で感じて投入する水の量を調整したり、食材の品質を見極めて加熱時間を変えたり、一定のクオリティを届けるためには小さな工夫が必要。食品製造スタッフの仕事は一見すると単調な作業に思えますが、日々変化を感じながら働けるのです。

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