笠島 麻衣さん
インタビュー公開日:2024.10.08

舞台芸術をメインとした新しい劇場。
気軽に演劇を楽しめる環境を整えたい。
「劇場のある街が生まれる-」。そんなテーマを掲げた劇場が2024年5月、札幌に誕生しました。商業施設・ホテル・住居などが入る再開発複合ビルとして、札幌市北8条西1丁目に建設された、その名も「さつきた8・1」の2階の一角を占める『ジョブキタ北八劇場』です。2フロア、226席の劇場は、演劇をはじめとする舞台芸術の上演を念頭に設計されています。
「観やすく座りやすい客席と、ハイスペックな設備が導入された舞台が特徴の劇場です。開業日の5月11日から約1カ月にわたり、こけら落とし公演『あっちこっち佐藤さん』を上演しましたが、おかげさまで、チケット完売日が続くなど、好評を博しました」
多くの人にこの劇場を知ってほしい。そして気軽に演劇に触れてほしい。そう話すのは、劇場を運営する一般財団法人田中記念劇場財団で事務局長を務める笠島麻衣さん。札幌駅直結のこの劇場に手応えを感じているようです。
「当劇場の芸術監督であり、俳優・演出家・劇作家として活動する納谷真大を中心に、この場所で創作活動を行い、年間を通してロングラン公演を行うことを目指してしています」
ここに来れば、いつでも舞台が観られて楽しい時間を過ごせる。そんな環境を整えていきたいと、まっすぐな瞳の笠島さんです。
演劇公演の準備から、
お客様の誘導までサポート。
この劇場の立ち上げから関わってきた笠島さんの仕事は、大まかにいうと、劇場の管理や環境整備、演劇など舞台公演のサポートです。
「当劇場が主催する公演なら、まず上演を知らせる広報活動、チケットの準備などを行います。また、演劇公演にあたっては、公演のご協賛をいただくため、個々の方々や企業様への働きかけや、文化・芸術の振興のために設けられている各種の補助金・助成金などを受給するための申請書類の作成といった事務作業も大切な仕事ですね」
一方で、劇場主催以外の公演にあたっては、関係者との調整や注意事項の伝達、劇場使用の予約受付、費用・設備の説明なども担当。また、劇場内をチェックしてゴミを片付けたり、楽屋の状態を確認して環境を整えるなど、細かい作業を手際よく行っていきます。
「上演時間が近づくと、その日の入場予定者数などを確認し、チケットの準備やロビー周りが整っているか、公演スタッフと分担して作業を進め、お客様をお迎えします」と笠島さんは笑顔で語ります。
「ようこそ、いらっしゃいませ。受付はこちらです。○○時より開場となりますので、こちらでお待ちください。当公演は自由席となっております」と開場時間に合わせてやって来るお客様が迷わないよう、スムーズに劇場内へ誘導。熱気が漂う会場のドアを閉めると、いよいよ幕が上がります。
小劇場演劇との出会いが転機に。
大学の演劇部での経験が今につながる。
笠島さんの話からは、演劇など舞台が上演されるまでの流れ、劇場におけるルールなどを知らなければできない仕事という印象を受けます。ご自身はどのようにして、今の仕事にたどり着いたのでしょうか?そこには、多くの偶然と、折々の決断がありました。
「小学校に上がったころ、自宅のすぐそばに『やまびこ座』という、子どものための舞台芸術を提供する劇場ができたんです。公演がない日もロビーは開放されていて、絵本を読んだり、けん玉などのおもちゃで遊んだりしていましたね」
毎日のようにやまびこ座に通い詰めていたという笠島さん。そこで活動している『やまびこ座遊劇舎』に参加します。これは、劇遊びなどを通して、表現する楽しさを体験することを目的とした集まりで、笠島さんも劇に出たり、人形劇づくりに取り組むようになります。
「中学、高校でも人形劇団に入っていましたが、ワークショップに来てくれた演出家の誘いで、札幌の劇団の芝居を小劇場で初めて観ました。小劇場での観劇はこれが初めて。役者さんの熱量を間近に感じて、すごく強い印象を受けました」
その後、その劇団の母体ともいえる演劇部のある大学に進んだという笠島さん。自身も演劇部に所属したことが、今の仕事への入口となっていきます。
シアターZOOの『小屋付き』として就職。
劇場運営の全ての業務に携わる。
演劇部自体は2年で退部しますが、笠島さんはその後、先輩の誘いで演劇公演の仕込みの手伝いを始めます。チラシの折り込み、舞台セットの建て込み、照明の準備。アルバイトとして働くようになったころ、アルバイト先の会社の方から、声がかかりました。
「公益財団法人北海道演劇財団(※)が運営する扇谷記念スタジオ・シアターZOOで『小屋付き』を探しているという話でした。小屋付きというのは劇場管理者のことで、劇場そのものにも関わる仕事です」
当時、就職活動の時期だった笠島さん。「他に希望していた先への願書提出期限が過ぎてしまい小屋付きになることを決めた」と、少し照れながら打ち明けてくれました。
「劇場のホームページの更新や広報活動、利用希望者の受付、観客の受け入れ、劇場の清掃などに加えて、舞台の機材の確認、照明の修理まであらゆることを手がけていました」
劇場のいわば支配人として、演劇を支える仕事に魅力を感じていた笠島さんですが、「大学を出て8年程経ち、30歳を迎える頃、将来に向けて環境を変えてみたい」と考えるようになります。結婚が決まったのは、ちょうどそんなタイミングでした。
※北海道の演劇をはじめとする創造活動の人材育成、創造環境の充実、演劇を通した地域づくりを目的として1996年に設立された公益財団法人
利用しやすさといったことにも着目。
劇場に欠かせない主役の一人として。
結婚退職後、笠島さんは新たなオファーを受けます。国内外で創造的活動を行っているアーティストの支援、市民の活動・交流の場となる施設としてオープン予定だった、「さっぽろ天神山アートスタジオ」。その立ち上げの準備作業をし、施設オープン後は利用者の受付、各種スタジオの整備など、やはり小屋付き的な仕事を担当します。
「出産まで働き、産休を経て子どもが1歳になったころから職場に復帰して時短勤務を続けました。同じ団体が運営するレンタルスペースで利用者の受付なども担当。これも、『小屋付き』といえる仕事ですね」
レンタルスペースが解体により閉鎖になると、今度は北海道演劇財団時代の上司であり、田中記念劇場財団の専務理事から、『ジョブキタ北八劇場』へ誘いを受け、今に至ります。
「母親になったことで、子ども連れで来場してくれるお客様の大変さがわかるようになり、感謝の気持ちが強くなりました」
その思いが契機となり、アートと福祉をテーマに、多様な人々が共生できる社会を支える人材を育成する東京藝術大学の履修証明プログラムをオンラインで受講。劇場のアクセシビリティ(利用しやすさ)といったことにも目を向けていきたいと話します。ゲネプロ(通し稽古)を通じて、面白い芝居に真っ先に触れられるのが『小屋付き』の特権と、目を輝かせる笠島さん。劇場に欠かせないもう一人の『主役』です。

※姉妹サイトしゅふきたママLifeでは、「ママとして活躍」という視点で笠島さんのインタビューを掲載中!こちらもご覧ください。
シゴトのフカボリ
劇場管理人の一日
10:00
出勤、メールチェック、劇場・楽屋の確認・整備、電話応対、補助金申請書類などの作成
12:00
昼休憩
13:00
劇場運営に関する各種打ち合わせ
18:00
公演準備(受付スタッフとの打ち合わせ、チケット準備、ご案内など)
19:00
退勤
10:00

10:00

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

紙めくりクリーム
公演準備に欠かせないチラシの折り込み。上演作品に加えて、演劇団体や劇場などからの依頼でお客様に配布する大量のチラシをセットするため、すぐに指先が乾燥してしまします。ベタつかず、滑り止めになるこのクリームがないと、作業になりません。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

演劇の楽しさを感じてくれる方を増やしていくことも、私たちの仕事です。札幌でも、様々な作品が上演されていますし、選りすぐりの作品をラインアップしたいと思っています。ぜひ、劇場にお越しください!

一般財団法人 田中記念劇場財団

演劇をはじめとする芸術文化によるまちづくりに関する事業を行うことを目的として2021年に設立。「ジョブキタ北八劇場」の運営を行っている。

住所
北海道札幌市北区北8条西1丁目3番地 さつきた8・1 2階
TEL
011-768-8808
URL
https://kita8theater.com

お仕事データ

ステージと客席に一体感を!
ステージスタッフ
ステージスタッフとは
自身が担当する仕事を通し、
お客様を盛り上げるのが役割!

コンサートやライブ、演劇、イベントなど、ステージ・舞台の準備や運営、演出を手がけるのがステージスタッフ。音響や音質を調整する「PAエンジニア」、楽曲や演出に合わせてライトを操る「照明エンジニア」、背景やスクリーンに映像を映し出す「映像エンジニア」といったステージエンジニアの他、楽器や機材を運搬してセッティングする「ローディ」、会場の設営や受け付け、警備などの仕事も総称してステージスタッフ。また、ステップアップした先には、劇場全体の総責任者として、人・モノ・金・情報をトータルに管理する「劇場支配人」も目指せます。いずれも自身が担当する仕事を通じて、お客様に一体感と盛り上がりを届けるのが仕事です。

ステージスタッフに向いてる人って?
エンターテインメントに興味があり、
裏方として出演者を支えられる人。

音楽や演劇といったエンターテインメント全般に興味がある人はステージスタッフに向いているでしょう。裏方として出演者を支えることに加え、どんな現場や会場であってもステージを盛り上げるという信念も必要です。また、ステージに関わることすべてに気を配り、不測の事態に対して迅速に行動することも求められます。音響や照明、映像といったエンジニア職にはクリエイティブな感性も大切です。

ステージスタッフになるためには

ステージスタッフになるための特別な資格や学歴はありません。ただし、多くの場合、音楽や芸術、工学系の専門学校・短大・大学などの音響学科やコンサートスタッフ科などでステージスタッフに必要な基礎知識を学びます。就職先は、舞台制作会社やイベント制作会社、アーティストが所属するプロダクション、音響・照明・映像それぞれのエンジニアのプロダクションなどさまざまです。

ワンポイントアドバイス
デジタルで手軽に音楽が聞ける分、
本物を見たいという人も増加中!?

音楽CDやライブDVDは売上が低迷しているといわれている一方、ライブ公演数やライブ入場者数は増えているというデータがあります。ここ最近は音楽を中心とするデジタルコンテンツの配信サービスが人気を博していますが、手軽な分だけ「実際に本物を見てみたくなる」というニーズもかき立てているようです。ステージスタッフは、今後も需要が高まっていくと見込まれます。