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浅井  海人さん
インタビュー公開日:2022.12.02

子豚と北海道の自然に一目惚れ。
18歳、たった一人で喜茂別町へ。
羊蹄山のふもと、雄大な自然が広がる喜茂別町。取材班が熊谷農場の豚舎を覗くと、つい目を細めてしまうほど可愛い子豚たちの姿がありました。鳴き声に混じり聞こえてきたのは、「元気かー?」「ええぞ、ええぞ」という青年の声。
「僕は豚が大好きなので、こうやっていつも話しかけてるんです」と、浅井海人さん。もしやその訛り、関西弁では?
「その通り、大阪出身です。幼いころから動物が大好きで、高校はさまざまな動物の飼育を学べる府立農芸高校へ進みました。そこへ入学してすぐに子豚を見て『なんて可愛いんや!』と一目惚れしてしまったんです」
それから1年後、修学旅行で訪れた北海道の自然に感激。故郷から遠く離れたこの地で養豚の勉強をすると決意し、畜産系の大学進学に向け勉強を開始します。ところが…
「肝心の受験当日に高熱が出てしまい、試験を受けられなかったんです。これも何かの運命だと割り切って、そのまま養豚場に就職しようと決心しました」
その後、ネットで求人を検索してたどり着いたのが熊谷牧場。当時は喜茂別町の名前を知るのも初めてで、地図を見て「札幌の隣町だから都会だ」と勘違いしたのだと笑います。
小さな農場でありながら、
出荷頭数日本一の銘柄豚を生産。
畜産といえば家族経営の職場をイメージする人も多いのではないでしょうか。ここ熊谷農場も、現在代表取締役を務める熊谷亨さんが10年程前にお父様から引き継いだ農場です。しかし、他の農場と大きく異なる点があります。それは群馬県に本社を持つ養豚企業、グローバルピッグファーム(以下、GPF)に加盟していること。飼養しているのは「和豚もちぶた」という銘柄豚で、肉質の良さや旨味の深さに定評があり、単一銘柄として日本一の出荷頭数を誇っている豚肉です。GPFに加盟するメリットは、このブランド力を武器に売りやすいという点だけでなく、生産の面でも大きなサポートがあるそうです。
「一般の養豚場では育種(品種改良)や出荷の手配など、飼育以外のさまざまな仕事も自分たちでしなければなりませんが、そうした業務はGPFに全てお任せ。さらに安価で飼料を購入できたり、疾病への対策をしてくれたりするほか、経営に関する助言まで行ってくれます」
つまり養豚家は美味しい豚の飼育だけにとことん集中できる環境なのですね、と言うと、もっと大きな特長があると付け加える浅井さん。
「一番はやっぱり美味しいこと。一口食べただけで、脂身の甘さに驚きますよ!」
豚の表情を見分けることが、
プロの養豚家への第一歩。
熊谷農場で飼育している豚は約4000頭。その飼育は、繁殖・分娩・離乳・肥育と、豚舎ごとに4つのステージに分かれていて、誕生から出荷まではおよそ160日。生まれた時は1.5kgしかない子豚も、半年でなんと120kgにまで成長するそうです。
浅井さんの仕事は全ての豚舎での清掃や空調の調整、1日2度の見回りなど多岐にわたります。餌付けなどはほとんどが機械化している一方、豚たちの健康や安全を守るために細やかな気づかいが必要となります。
「豚はイメージとは裏腹にストレスや病気に弱く、とても繊細な生き物。肌ツヤや呼吸、表情をよく観察して、些細な体調の変化に気付かなければなりません」
浅井さんの場合、全ての豚舎を担当しているため、1日に約4000頭の観察を2回…つまり、毎日約8000回も、豚1匹1匹と向き合っているのだとか。
「7年目となった今でこそ豚たちの考えていることが分かったり、見分けがつくようになりましたが、はじめはみんな同じ顔にしか見えませんでした(笑)」
優れた養豚家の第一歩がこの観察だと浅井さん。なんと、熊谷社長は500頭の群れの中から一目で体調が悪い豚を当てることができるのだとか…!
愛情をかけたからこそ、
消費者を幸せにできる。
熊谷社長の言葉を借りると、「豚は自分の鏡」なのだと浅井さんは語ります。
「例えば粗末な扱いをすると、設備を噛んで壊したり、突撃してきたりします。でも、きちんと愛情を持ち、可愛がって育てると、驚くほど懐いてくるんです。僕の姿が視界に入るなり、駆け寄ってくる子もいるんですよ」
こうした愛情こそ、養豚で最も大切。命あるものと向き合う以上、どんな時でも「仕方がない」と手間を惜しまない責任感が必要だと、浅井さんは話を続けます。
「たくさんの愛情をかけた子が病気で苦しむ姿を見たり、時には死んでしまったりと、ショッキングな出来事も少なくありません。でもそれ以上に、僕は豚といる時間が大好き。どれだけ一緒にいても飽きることがないんです」
やさしい眼差しで豚について語る浅井さんを見ていると、一つ気掛かりな疑問が浮かびます。これほどの愛情をかけた豚が出荷、つまり死を迎える時、悲しくないのかということです。
「正直言うと、はじめは複雑な気分でした。けれど今では、愛情を与えて幸せに育てた豚は、同じように誰かに幸せを与えられると信じています。だからこそ、この子たちとの1日1日を大切にしようと思えるんです」
新たな家族と、大好きな豚と共に
この地で暮らしていきたい。
ところで、当初たった1人で縁もゆかりもない喜茂別町で暮らす事に不安はなかったのでしょうか。
「実は喜茂別は札幌も新千歳空港も車で1時間半と、アクセスがとっても良い場所なんです。新千歳から大阪まではLCC(格安航空)が就航していますので、気軽に帰省も可能。風の音や鳥の鳴き声…しか聞こえない環境にも心地良さを感じています」
ちなみに入社時、家や車など必要な手続きの手配は全て、熊谷社長が手伝ってくれたそう。また働く環境も想像以上に良く、文字通り働いた分だけお給料がもらえる点も気に入っているといいます。
「本来は週休2日制ですが、僕は仕事が好きなので毎週土曜日も出勤し、その分のお給料も貰っています。おかげさまで、昨年、自分の車を新調しました」
また、半年ほど前には喜茂別町内で知り合った今の奥様と結婚したという浅井さん。「これからは家庭にも愛情を…」と尋ねると、恥ずかしそうにこう答えてくれました。
「どんなに嫌なことがあっても、疲れている時も、豚を見ると一瞬で吹き飛んでしまう。つい休みの日まで、豚舎に顔を見に行ってしまうことも…それほど豚が大好きなんです。けれどこれからは豚以上に、家族にも尽くさないといけませんね(笑)」
シゴトのフカボリ
養豚家の一日
8:00
出勤
8:10
各豚舎での餌やり、見回り、掃除
12:00
昼休憩
13:00
分娩舎の掃除
14:30
各豚舎での餌やり、見回り、掃除
17:00
退勤

シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

豚は当然喋りませんが、1頭1頭真摯に観察を続けると体調やストレス等、心が表情に表れてきます。勝手な思い込みや決めつけを行わず、少しでも違和感があれば「何でだろう」と疑問に思うことが大切です。

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

カッター3点セット(ニッパー・テールカッター・耳刻切り)
他の豚を傷付けないようキバを抜くニッパー、文字通り尻尾を切るテールカッター、個体を識別するために耳を切る「耳刻切り」の3つ。「豚の尻尾は長いままだと噛まれて、ケガや病気の原因となるため、子豚のうちに短く切ってしまいます」

有限会社熊谷農場

約40年前に設立、2004年に法人化。グローバルピッグファームの一員として、銘柄豚「和豚もちぶた」を飼養。常時約4000頭の豚を飼育し、年間約9000頭を出荷。全国はもちろん、近年は北海道内の大手スーパーマーケットでも取り扱いが開始されるなど、評価が高まっている。

住所
北海道虻田郡喜茂別町中里344番地
TEL
0136-33-6605

お仕事データ

肉や乳製品、卵を生産。
畜産・酪農家
畜産・酪農家とは
牛や豚、鶏、羊などを育て、
人の命をつなぐ生産物を!

畜産・酪農家は牛や豚、鶏、羊といった家畜を育て、乳製品や肉、卵、皮革などを生産する仕事。肉牛や豚、鶏を飼養して畜産物(肉・卵など)を生産するのが畜産農家、乳牛を育てて牛乳や乳製品をつくるのが酪農家と大別されます。畜産農家は主に飼養する家畜の餌やりや体調管理、畜舎の清掃、理想の肉質に向けて太らせる作業などを行います。酪農家は乳牛のお世話に加え、搾乳、繁殖(生乳を出すために出産させる)、牧草の栽培などが主な役割。最近は乳牛と肉牛を飼育する「乳肉一貫複合経営」も増えているようです。

畜産・酪農家に向いてる人って?
動物が好きであることに加え、
家畜と根気強く向き合える人。

畜産・酪農家は牛や豚、鶏、羊などと毎日ふれ合う仕事。動物が好きな人には向いているでしょう。一方、力仕事が多かったり、家畜を病気やストレスから守るために日々チェックを欠かせなかったり、大変な作業も少なくありません。そのため、仕事に根気強く向き合う姿勢も求められます。生き物を相手にすることから、勤務時間や休みが不規則なケースが多いという覚悟も必要です。

畜産・酪農家になるためには

畜産・酪農家になるために必要な資格や学歴はありません。一般的には農業・畜産系の学科やコースを置く専門学校・短大・大学に進学し、知識や技術を習得する人が多いようです。また、家業を継ぐ他、中学・高校卒業後に牧場に就職し、餌やりや牧草づくり、農機具の扱い方などを現場で学ぶこともできます。畜産・酪農家として新規参入するには大きな資金や経営スキルが必要なため、まずは牧場で経験を積むのが第一歩でしょう。

ワンポイントアドバイス
担い手をサポートする自治体が増え、
牧場の労働環境も改善傾向に!

畜産・酪農家の戸数は減少傾向にある一方、日本の食糧を支えるために不可欠な仕事。そのため、担い手を呼び込むための誘致や支援、就農サポートを行う自治体も増えています。また、畜産・酪農家は休みなく働くイメージでしたが、最近は搾乳や餌やりをサポートする酪農ヘルパーを活用したり、牧草の収穫などを外部に委託するコントラクターを活用したり、労働環境の改善に力を入れている牧場も多いようです。

この仕事の求人例