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藤盛  勇斗さん
インタビュー公開日:2024.11.11

小さなころから夢だった
バスの運転手に。
特別企画記事/ この記事は、「路線バス運転手の魅力を発信する」をテーマに「札幌ばんけい(ばんけいバス)」「ジェイ・アール北海道バス(JRバス)」「じょうてつ(じょうてつバス)」「北海道中央バス(中央バス)」の様々な年齢層の現役バス運転手に、志望の動機や仕事の内容、やりがいなどをインタビューした、札幌市による「特別企画記事」です。

短く刈り上げた髪にハツラツとした笑顔。まるで高校球児のような爽やかさで「よろしくお願いします!」と挨拶してくれたのが今回の主人公、藤盛勇斗さん。取材陣の勘は正しく、つい3年前まで高校球児だったそうです。
藤盛さんがバス運転手を目指した理由は、5歳頃に起きたある出来事がきっかけだとか。ある日、人生で初めて1人でバスに乗った藤盛さんは、財布を家に忘れてしまったことに気付いたそうです。
「子どもなので『どうしよう、逮捕されるかも』って大パニックです(笑)。慌てて運転手さんに伝えると『いいから気にしないで!次は忘れないでね!』って笑顔で温かな言葉をくれて。すごく安心したと同時に、こんな素敵な仕事があるんだって思いました」
それからの「将来の夢」には必ず「バス運転手」と書き続けたという藤盛さん。高校卒業後すぐに就職したいという想いから、商業高校を選択。さらに希望の就職を叶えるために、テストも学年一位を目指し努力し続けたというから驚きです。
待ちに待った就職活動の時期、学校の廊下に貼り出されていた求人票を見て藤盛さんは驚きます。奇しくも、運転手を目指すきっかけになったバス会社と同じ「じょうてつバス」が運転手を募集していたのです。
「家も高校も南区でしたので『じょうてつ』は日常の足として、幼い頃から馴染みがあったバスでした。でもまさか、唯一来ていた求人まで『じょうてつ』とは…、不思議な運命の巡り合わせを感じました」
1年の研修、厳しい試験…
全てはお客様の安全のため。
入社前に自動車運転免許を取得していた藤盛さんでしたが、実は路線バス運転手に必要な「大型自動車第二種免許」の取得には、「19歳以上」「普通免許取得後1年」など、一定の条件が必要です。藤盛さんも入社後1年は免許が取得できず、ハンドルを握ることすら許されませんでした。
「1年間は事務所内のお手伝いをしながら勉強に徹しました。おかげで電話の受け取り方やお客様との応対の仕方といった社会人としてのスキルが身につきましたし、他の運転手さんや社員さん達との交流もできたので、今となっては良かったと感じています」
1年後、無事に免許を無事に取得しますが、次は社内での試験が待ち受けています。
「免許はあくまで運転技術を学ぶもの。会社ではお客様の安全のためにどんな運転や心配りが必要か、どんな応対が必要か、路線ルートではどんな点に気をつけるべきかを、座学で習いました。続く実践では、はじめに先輩が運転する様子を見て、次は会社構内を運転をして、その次は無人で実際のルートを走行して…と、ステップを踏んで運転技術を学んでいきます」
そして2023年8月、いよいよ初めて本物のお客様を乗せ、ハンドルを握った藤盛さん。しかし、初日はあまりの緊張で全く記憶ないのだとか。「気付いたら終点に着いていました」と笑います。
「それよりも思い出に残ってるのは、両親が僕の運転するバスに乗りに来てくれたことです。『小さな頃からの夢が叶って良かったね』と喜んでくれました」
「もしも」の時は、
先輩たちの言葉を思い返します。
運転デビューから4ヶ月後の12月、バス運転手には最もつらい存在が空からやってきます。北海道とは切っても切れない縁の「雪」です。
「特に『じょうてつ』の路線の中心である南区は坂が多く、道が狭いところも多くて…。除雪の追いついてない道路を走行中、タイヤが埋まり身動きがとれなくなる出来事が起きました」
予期せぬトラブルが起きた時は、藤盛さんは必ず心を落ち着かせて、試験や講習で教わった内容を思い返すのだそう。
「バスが守っているのは、地域の人々の足であると共に、お客様の『命』でもあります。お客様の安全のためにはとにかく慌てず、冷静に判断することが重要。会社から教わった内容を振り返り、周囲に車がいないか注視しながらハンドルを操作して切り抜けました」
こうした緊急時の対応はきちんとマニュアル化はされているものの、先輩たちの「生」の言葉も大切だと続ける藤盛さん。
「先輩運転手や運行管理者から日々『ここの信号に気をつけて』『冬はこの道が危ない』と情報共有や助言をもらうんです。じょうてつは特にベテランが多い会社ですので、長年の経験でしか得られない貴重な情報を得られる点をとても心強く感じています」

※運行管理者:バスの運行に欠かせないスペシャリスト。時間や路線だけでなく、運転手の健康状態や路面状況、車輌など全てに気を配り、バスの安全な運行を守る。
休むのも大切な仕事だから
休日はシッカリ、休憩はのんびり。
じょうてつバスの運転手は、時間帯別に「早番」「中番」「夜番」という3つのシフトに分かれていて、いずれも実働時間は7時間ほど。路線にもよりますが「早番」が始発の5時台からの勤務を指し、「遅番」が24時の最終便まで。それ以外の日中が「中番」と呼ばれています。
「安全のために、どのシフトでも必ず休憩時間が設けられていて、最短でも1時間、長い時では1時間半ほど休める時もあります。ちなみに僕は家が近いので、一度帰って食事や昼寝をしていることが多いですね。他の先輩や同僚は休憩室でおしゃべりをしたり、仮眠室で寝たり、待機中の車内で読書をしたりと、思い思いの時間を過ごしています」
当初は時間に慣れるまでは苦労したそうですが、今ではすっかり適応もできているとか。
「入社前に想像していたよりも普通の生活を送っています。出勤前後はゲームをしたり、家でのんびりしたりして過ごしています。定刻通りの運行を守るのが仕事でもあるので、積雪のトラブルが無ければ残業もありません。実働時間はだいたい7時間なので、一般的な仕事よりもちょっと短いのも嬉しいです」
ちなみに休日は半期ごとの運行ダイヤ改正時にシフトを申請する仕組みなのだとか。
「固定休ではありませんが、常に半年先まで休日を決められるのは意外と便利で、連休も取得可能。先輩たちの中には有休と組み合わせて長期休暇を取る方もいますよ」
「重み」の分だけ、
「誇り」も乗せている。
長年の夢だったバス運転手になり1年が経った藤盛さん。ハンドルさばきや笑顔にも余裕が見られます。しかし取材陣が「すっかり慣れましたね」と言うと一転、真剣な表情を浮かべます。
「この仕事は『慣れ』が一番の危険なんです。どんなに運転に慣れても、お客様の大切な命を預かっている以上、油断は禁物。常に初心を忘れずに安全に気を遣い、集中しなければなりません。この責任の重さが、助手席で憧れて見ていた時との一番の差です。よく『好きなことを仕事にすると大変だ』と言いますが、その言葉通りだと思います。でも…」
堅かった表情がゆるみ、恥ずかしそうにニコリと笑います。
「こう言うと気持ち悪がられるかもしれませんが、ハンドルを回している時にふと『自分カッコいいな』って思うことがあります。たくさんの人の命を乗せている『重み』があるからこその『誇り』もこの手に握っていると感じるんです」
シゴトのフカボリ
バス運転手の一日
15:00
出勤、点呼、アルコールチェック、安全点検、洗車
15:30
出庫、担当路線へ
19:00
休憩
20:00
再び担当路線へ
23:00
入庫、金庫処理、アルコールチェック、日報提出、洗車
23:30
退勤
※遅番の場合
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

「素直な気持ちを大切に」
大好きなアニメのセリフから。やりたいことがあるなら、素直に従うのが一番です。僕はこれからも、運転の楽しさを忘れずにいること。長年の夢だった仕事をしているという気持ちを、この先もずーっと忘れずにいたいと思っています。

株式会社じょうてつバス

1915年(大正4年)創業。前身は北海道唯一の私鉄であった定山渓鉄道株式会社。温泉地である定山渓、札幌軟石の採石場があった石山と、開拓が急ピッチで進んでいた札幌駅前や白石地区を結び、札幌の発展に貢献した。1957年(昭和32年)、東京急行電鉄株式会社(東急グループ)の系列会社となり、1973年(昭和48年)に社名変更。現在は不動産事業、路線バス事業、観光バス事業を中心に取り組む。

住所
北海道札幌市白石区東札幌1条1丁目1-8
TEL
011-811-6141(代表)
URL
https://www.jotetsu.co.jp/

お仕事データ

安全・確実にお客様を輸送
バス運転手
バス運転手とは
お客様を気づかいながら、
目的地へと安全に走行!

バス運転手の仕事は「路線バス」「高速バス」「観光バス」「送迎バス」に大きく分けられます。路線バスは地域住民の足となり、決められた時間とルートを安全に走行。高速バスは出張や帰省のお客様を乗せて、主に都市と都市を結ぶ高速道路を走ります。観光バスは修学旅行や団体ツアーなどの観光に使われる観光産業の要。送迎バスは介護施設や幼稚園、各種スクールなどを利用する人の移動手段です。いずれもただ運転するだけではなく、乗務前の車両点検や空気圧チェック、乗車中に具合が悪くなった方の対応など、お客様の安全を守るための気づかいを求められます。

バス運転手に向いてる人って?
ふだんから健康管理の意識が高く、
マジメにコツコツ頑張れるタイプ。

お客様を安全に目的地まで運ぶためには健康管理が重要。体調の悪化から集中力を欠いてしまったり、運転できなくなってしまうと思わぬ事故につながりかねません。乗務前には健康チェックを行いますが、運転手として働くからにはふだんから心身の状態を把握しておく必要があります。また、常に時間を気にしながら、正確に運転することが求められるので、マジメにコツコツ頑張れる人も向いているでしょう。お客様と会話をするなど人と接するのが好きなタイプも活躍できるはずです。

バス運転手になるためには

バス運転手に必須の資格が「大型第二種自動車運転免許」。この免許の取得条件は普通自動車運転免許か大型一種自動車運転免許、もしくは大型特殊自動車免許を取得し、通算3年以上が経過していること。バス会社の多くは、「養成制度」を持ち、会社負担で大型第二種免許を取得させてくれるので安心してください。入社後は停留所の位置や地理の勉強、アナウンスの練習、実技訓練など研修の手厚いところがほとんどです。

ワンポイントアドバイス
バス運転手の労働環境は改善傾向に。
活躍のフィールドも広がりそう!

かつてはバスの運転手といえば長時間労働で過酷な仕事のイメージ。ところが、ここ最近は高速バスの事故などにより安全管理が見直され、各社は若者や女性の積極的採用、人材定着のための取り組みに力を入れて労働環境を改善しているようです。地域に欠かせない路線バスはもちろん、シニア層向けの観光バスツアーや電車が通っていない地域のコミュニティバスなど、バス運転手のフィールドも広がっています。