海上の安全と治安を守るのが海上保安官の任務。海難者の捜索や救助活動、犯罪やテロ行為などを未然に防ぐパトロール、時には密航船に警告を発し、威嚇のために相手の船へ放水を行うこともあります。火山の噴火から避難する人々に物資を届けたり、船舶の火災の消火活動を行ったり、海上の幅広い問題の解決も守備範囲。また、陸上でも海上交通ルールの設定や海図の作成、総務や経理といった業務を担う人も。各地の基地に配備されている飛行機やヘリコプターの整備・運航にあたる海上保安官もいます。
海上の安全や人命を守ることが海上保安官の大きな役割のため、強い責任感や正義感を持っていることが大前提。海という自然と対峙しながら海難救助や不審船への対応を求められることからも、体力に自信がある人にも向いているでしょう。また、海上保安学校や海上保安大学校への入学時に水泳能力は問われませんが、授業によって訓練を受けて泳げるようにならなければなりません。チームや他部署と連携して仕事をすることも多く、協調性も必要です。
海上保安官になるためには、海上保安学校(京都府舞鶴市)か海上保安大学校(広島県呉市)に入学する必要があります。高校または中等教育学校(中高一貫校)の卒業が最低条件です。いずれも試験は国土交通省職員の採用も兼ねているため、入学時から国家公務員として扱われ、給与が支払われます。海上保安学校は課程によって1~2年、海上保安大学校は4年間の本科教育に加え、実務を学ぶ6カ月の専攻科と国際業務課程と呼ばれる3カ月の研修を経て各地に配属されます。また、令和2年度からは海上保安庁の「幹部」となる職員を養成するために、大学卒業者を対象として「海上保安官採用試験」を新設。この場合、2年間の研修を経て現場に赴任されます。
※海上保安学校、海上保安大学校については、詳しくは海上保安庁のホームページをご確認ください。https://www.kaiho.mlit.go.jp/
海上保安官の中には、経験を積んだ後に本人の希望や適性などによって専門性の高いスペシャリストの道を歩む人も少なくありません。例えば、潜水訓練を受け、船舶の転覆や沈没などの海難事故に遭遇した人を船舶から救出する潜水士。その中からさらに選抜された人は、火災で燃えている船や危険物を搭載している船など、特殊な状況下で人命救助を行う特殊救難隊として活躍しています。他にも、ヘリコプターによる救助を行う機動救難士、船舶事故などによって海上に排出された油や有害液体物質の除去を行う機動防除隊、外国人犯罪の捜査にあたる国際捜査官などのスペシャリストがいます。