海野 未来さん
インタビュー公開日:2023.07.19

高校生のころから描いてきた
「初音ミク」のゲームイラストを担当!
「会社にピッタリの名前ですね、とよく言われるんです」。こういって笑うのは、海野未来(みらい)さん。クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下、クリプトン)で、「初音ミク」などのキャラクターを用いたゲームのグラフィックデザイナーとして働いています。
海野さんは幼いころからイラストが大好き。授業の合間や休み時間には、暇さえあればお絵描きしていたと振り返ります。高校3年生のころ、彗星のごとく現れたのが歌声合成ソフトウェア「VOCALOID2 初音ミク」です。メロディと歌詞を入力すると女性の声で歌ってくれるという画期的なソフトは、またたく間に人気が広がり「ボカロ」と呼ばれる音楽ジャンルを確立。パッケージに描かれたキャラクターの愛らしさも相まって、社会現象とも呼べるムーブメントを巻き起こしました。
「私も当時、彼女をお絵かきノートの片隅に描いてきた一人。だからミクは私にとって、昔からよく知っている友達のような感覚なんです」
大学で学んだ「動かす」技術が
就職の道に直結。
海野さんは大学で美術やデザインを中心に学びながら、デジタルツールを用いたアニメーション制作やゲーム作りを行う研究室に所属しました。
「当時主流だった『Adobe Flash』と呼ばれるアプリを使って、実験的にアニメやゲームを制作していました。研究室からは課題を山ほど与えられましたが、絵を描くだけじゃなく『動かす』面白さを実感し、気がつけば無我夢中でマウスを動かしていたんです」
そんな姿が教授の目に留まり、勧められたのがクリプトンでのアルバイトでした。業務内容はまさに、大学での技術を活かしたムービー制作。
「当時、スマホのソーシャルゲームが流行していたんです。キャラクターのモーションをはじめUI(ユーザーインターフェイス)のデザインなど、これまで培ってきた『描く』と『動かす』の両方を使える仕事が実に魅力的。会社としても即戦力として評価してくれ、社員として誘ってもらえたため、そのまま就職することにしました」
キャラクターの世界観を守り
新たな魅力を引き出す。
現在の海野さんは「ディレクション」と呼ばれる業務も担当しています。カンタンに言えば、ゲームやイベントに使う初音ミクのイラストを世界中のクリエイターに描いてもらったり、描かれた絵の修正を依頼したりする役割です。
「ミクは登場した当時から『みんなの手でつくる』ことを意識し、二次創作(既存の作品をモチーフに新たな作品を作ること)に一定の自由を与えたからこそ世界中に広がったキャラクター。彼女が持つ世界観やルールを守りながら、さまざまなクリエイターにさまざまな衣装やポーズを描いてもらい、新しい魅力を生み出すのが私のミッションです」
ちなみに、新人クリエイターを発掘するのも海野さんの仕事。イラストの投稿サイトやSNSを欠かさずチェックし、欲しいイメージにピッタリのイラストレーターを見つけているのだとか。
「『こんなミクが見たかった!』という姿を世界中の誰よりも早く見られるのが嬉しいんですよ」
ユーザーとクリエイター、
両方の目線を活かして働く。
海野さんがゲームの制作にかかわる中で、最も大切にしているのはユーザー目線。
「例えば、難易度の高い場面にさしかかった時、キャラクターが応援してくれたら『頑張ろう!』と思いますよね。操作説明の画面に登場してくれたら単調な文章も楽しく読めますし、メニューのボタンにいたら可愛くて押したくなる。そんな風に、自分が遊んだ時にワクワクできるかを必ずチェックして制作を進めています」
また同じチームで働く同僚や、プロアマ問わず外部のクリエイターと上手にかかわるため、伝え方も大切にしているのだといいます。
「絵を描くには手間もかかりますし、簡単に修正できるものではありません。すれ違いを無くすために、『こういうシチュエーションのために』『こんなポーズや衣装で』『表情はこんな風に』…と、明確に指示を出すようにしています。自分もクリエイターとして仕事をしているからこそ、クリエイターにとって一緒に仕事がしやすい人でありたいんです」
つくる喜びを
世界へ、未来へ伝えていく。
海野さんはこのところ、ゲームを巡る環境に大きな変化を感じています。その一つが「Steam」といったゲーム配信プラットフォームの普及により、タイトルが全世界に配信されるようになったこと。例えば、2022年11月にリリースした「初音ミク ロジックペイントS」は、英語や中国語はもちろん、タイ語、ルーマニア語、アラビア語…と、28もの言語でプレイできるのだそうです。
「ゲームを入口に、これまでよりさらに広い世界へ、より若い世代へとミクの人気が拡大しています。イベントに海外の方が来たり、10代の方がグッズを持っていたりすると、誇らしい気分になるんです」
クリプトンが会社のキャッチコピーとして掲げているのは「ツクルを創る」。初音ミクというキャラクターを通じて、音楽をつくる人や絵を描く人といったクリエイターを増やすのも、自分の役割なのだと海野さんは話を続けます。
「自分もミクのイラストを描いて気付けばクリエイターになっていたように、世界中の人や未来の人々にものづくりの喜びを届けたい。彼女はクリエイティブの可能性を授けてくれる存在なんです」
シゴトのフカボリ
グラフィックデザイナーの一日
9:00
出勤、朝会(その日の作業などを共有)
9:30
メールチェック、
ラフ(下書き)の監修
コラボ案件の確認など
12:00
昼休憩
13:00
ゲーム部門でのミーティング
14:00
CG制作、アニメーション制作
合間にイラスト監修や打ち合わせ
18:00
退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

何かをやる前に「どうしよう」と考えると、動き出すまで時間がかかってしまいます。でも、とりあえず手を動かしてみると、大抵のことは解決できます。失敗を恐れず、何事も積極的に行動するのがオススメです!

クリプトン・フューチャー・メディア株式会社

サウンド素材を輸入販売する「音の商社」として創業。得意分野の「音」を探究しながらデジタルコンテンツに関わる事業を展開する中、2007年に歌声合成ソフトウェア『初音ミク』を企画開発した。サウンドコンテンツのライセンス販売をはじめ、音声技術開発、音楽配信プラットホームの開発・運営、キャラクターライセンス事業、ライブ・イベント制作事業、地域を応援するローカルプロジェクトの企画・運営など、多岐にわたるサービス構築・技術開発に取り組んでいる。

※「ボーカロイド」「ボカロ」はヤマハの登録商標です。

住所
北海道札幌市中央区北3条西4丁目1−1 日本生命札幌ビル11F
TEL
011-222-6655
URL
https://www.crypton.co.jp/

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お仕事データ

色、形、言葉で、表現
グラフィックデザイナー
グラフィックデザイナーとは
紙媒体を中心に、
文字や写真を効果的にデザイン。

ポスターや新聞広告、雑誌広告、パンフレットなど、主に紙媒体のデザインを手がけるのがグラフィックデザイナー。広告代理店や広告制作会社、デザインプロダクションに在籍する他、フリーランスとして活躍する人もいます。クライアントが伝えたいことをしっかりと把握した上で、文字や写真を効果的に配置し、受け取り手に分かりやすくデザインすることが大切。場合によってはディレクターやコピーライター、カメラマンなどとチームを組んで制作を進めることもあります。

グラフィックデザイナーに向いてる人って?
デザインツールが扱え、
コミュニケーション能力に長けた人。

まずは「Photoshop(フォトショップ)」や「Illustrator(イラストレーター)」などのデザインツールを扱うスキルが必要。レイアウトや色彩、フォント(書体)などの知識も身につけなければなりません。また、クライアントの意図を的確に理解したり、チームで仕事を進めたりするため、コミュニケーション能力も大切。時には何度も修正作業を行うこともあることから根気強さも素養の一つです。

グラフィックデザイナーになるためには

資格や学歴が特に必要とされる世界ではありません。とはいえ、多くの人は大学や短大、専門学校でデザインツールの扱い方やデザインの基礎知識を学び、卒業後に広告代理店や制作会社、デザインプロダクションに就職しています。大きな企業の場合はマーケティング部などでもグラフィックデザイナーを採用しているケースもあります。

ワンポイントアドバイス
広がっている仕事の領域。

グラフィックデザイナーは紙媒体でデザインを表現するのがメインでしたが、最近はスマホやパソコンの普及に伴ってウェブサイトの仕事を依頼されるケースも増えているようです。その他、展覧会のレイアウトやイベントのプロデュース、まちづくりのブランディングなどを手がける人もいます。もちろん、それぞれの知識は欠かせませんが、グラフィックデザイナーの活躍の幅は広がっているようです。