奥山 直幸さん
インタビュー公開日:2024.09.20

60歳の定年を機に夢だった
バス運転手に挑戦。
特別企画記事/ この記事は、「路線バス運転手の魅力を発信する」をテーマに「札幌ばんけい(ばんけいバス)」「ジェイ・アール北海道バス(JRバス)」「じょうてつ(じょうてつバス)」「北海道中央バス(中央バス)」の様々な年齢層の現役バス運転手に、志望の動機や仕事の内容、やりがいなどをインタビューした、札幌市による「特別企画記事」です。

「いい話ができるか心配です。なにせまだ新人なので…」
そういってニッコリ笑ったのは、ばんけいバスの運転手、奥山直幸さん。ご年齢は60歳とお聞きしましたが、同社に入社したのは、ほんの五ヶ月前だそう。
「それまでは印刷会社の営業や薬品卸の販売担当など、さまざまな仕事に就いていました。定年を迎えたのは、大手ドラッグストアの店長を任されていた今年の初め。雇用延長という制度で継続勤務することもできましたが、60歳という節目に、新しいことにチャレンジしたいという夢が芽生え、思い切って退職することにしたんです」
では何をしようか…そう考えた奥山さんの脳裏に真っ先に浮かんだのは、バス運転手という職業。実は奥山さん、薬品卸の会社に在籍していた時分に、大型二種の免許を取得していたのだとか。
「それまで仕事で使う機会は一度もありませんでしたが、バス運転手なら最高の活用法だろうと。クルマの運転も好きでしたからね」
そんな折に舞い込んできたのが、ばんけいバスの運転手募集の知らせ。未経験に対する不安はありましたが、面接での「うちは研修を充実させています」という言葉に背中を押され、奥山さんは「ばんけいバス」への入社を決めたのでした。
研修で学ぶのは、尊い人命を
預かるという使命と責任。
店舗でのシゴトからバスの運転という技術職へ。奥山さんは初出社のその日から、研修期間に入りました。
「座学から実践まで、とにかく内容が多彩。運転席に設置されたパネルの名称からその使い方、実際の路線を利用したバスの運転技術、さらに危険を回避するための細かなノウハウ、乗客との接し方、さらに地方への出張運転のポイントなどなど、プロの講師による指導が二ヶ月ほど続きました。充実の研修の意味が、よーく分かりました(笑)」
中でも最も時間を要したのは、乗客の安全を最優先したバスの運転テクニック。先輩ドライバーが運転席の横に張り付き、マンツーマンで熱心にレクチャーしてくれたとか。
「前後左右のクルマと接触する危険はないか、車の影から歩行者が飛び出す可能性はないか、カーブにさしかかったときに運転席からのわずかな死角はないか、このブレーキ操作で乗客が転倒する心配はないか…などなど、気配りポイントが驚くほど多く、とても細かいんです。学びの量は、一般的な自動車学校の何倍、いや何十倍でしょうね」
もちろん、そこまで徹底している理由は、バスが「尊い人命を運んでいる」から。そしてバス運転手が「お客様を安全で快適に目的地に送り届ける」という大きな責任を担っているからです。
「微妙なハンドル操作、的確なドアの開閉、ソフトに踏むブレーキなど、自分の車を運転しているときには気にも留めなかったようなことにまで、細心の注意を払います。普段のんびり運転しているように見えたバス運転手の方々が、こんな気遣いをしていただなんて… まさに目からウロコでした」
いくら慣れても運転中は
気を抜かないことが鉄則です。
研修が終了したのは5月。そこからは先輩の同乗もなく、一人で運転しお客様に応対していくという「独り立ち」の日々が始まりました。
「バス運転手の使命や責任について、みっちり教わりましたからね。独り立ちを認められたときも、期待より緊張感の方がはるかに勝っていたような気がします。実際、どのくらいお客さんが乗っていたか、誰かと話を交わしたのか…最初の頃のことは、あまり覚えていないんですよ(笑)」
ちなみに札幌では、ばんけいバスのほか、JRバス、中央バス、じょうてつバスという合計4つのバス会社が運行。それぞれが担当するバス路線により、札幌市内の交通ネットワークを築きあげています。
「弊社は地下鉄円山公園と盤渓を結ぶ『円山線』と、地下鉄発寒南と真駒内を結ぶ『発寒南・真駒内線』の二路線だけなので、ルートを覚えるのはさほど苦労しませんが、その路線内にも交通量の多い地下鉄駅周辺、住宅地の細めの一車線、山間部の見通しの悪いカーブなど、注意ポイントは何カ所もあります。さらに雨天や積雪になると、まちなかの路線より危険度が増す場合も。入社して五ヶ月が過ぎ、この仕事にも少しずつ慣れてきましたが、運転中は決して気を抜かないよう心掛けています」
シフトは朝7時から14時まで、14時から19時までの2交替制。比較的ゆとりあるシフトとなっています。
「運転以外の時間は、エンジンルームや車内の点検のほか、洗車をしたり、日報を書いたり、他の運転手と情報交換をしたり。事務所は自然に囲まれていますし、定時運行なので残業もほぼありません。前職とは違い、ストレスとは無縁の環境ですね」
貸切バス運転もこの職業の醍醐味。
奥さまの応援も励みになって。
最近、奥山さんは貸切バスの運転も担うようになったとか。貸切とは、企業や学校などから直接依頼を受け、団体客を目的地に送り迎えするという業務です。
「サロマ湖100キロマラソンに参加する選手の送迎、盤渓で開催された花火大会の見物客のピストン輸送、そのほか少人数の観光旅行なども担当しました。移動距離が長かったり、泊まりがけだったり、観光やイベントに向かうお客様のため車内が盛り上がっていたりと、路線バスとはまた違った雰囲気です」
道東やニセコなどの遠方に出向く際は、事前に地図アプリなどでルートを確認。道幅やカーブなど大型バスが走行できるか、休憩はどことどこで取るか、各ポイントへの到着時刻は何時に設定するかなどの旅程調整などにも取り組みます。
「もともと旅行が好きで、家内とよくドライブに出かけていたのですが、その時とは準備も用意も気構えまで、全然違います」
家族の話が出たところでこんな質問を。バス運転手になった奥山さんを見て、奥さまはなんと?
「最初は、いくらクルマが好きだって無理じゃない?なんて言ってましたけど、今は、すごいね、がんばってるね!と褒めてくれます。家内はタクシー運転手で、職業ドライバーとしては大先輩。なので、彼女からのひと言は励みになるんですよね」
人間力が高まり器が大きくなる、
それがバスの運転手という職業。
最後に、この仕事のやりがいを尋ねてみました。奥山さんは、うーん…と唸った後、こう答えてくれました。
「多分、一年もすれば、お客様とのふれあいとかスケジュール通りの運行とか、最上級のドライブテクニックとか、いろいろ手応えを感じるのでしょう。でも、自分は新米のなりたて運転手。やりがいや手応えを感じる余裕は、残念ながらまだない、というのが正直な気持ちです」
なるほど、奥山さんはどこまでも謙虚です。
「ただし、乗客のことを第一に考え、全ての法令やルールを守り、最上級の安全を担保しながらハンドルを握る…という、プロの誇りは身についてきた気がします」
大きな責任を背負っている分、人としての『器の大きさ』が備わっていく…それがバス運転手という職業なのかも。そういえば、事務所内の他の運転手さんもおだやかな人が多いみたい。
「小さな会社なのでお互いを助け合い、フォローし合うという風土が定着しているんです。そんな先輩たちの仲間になれたことも、ここに入社したメリットの一つでしょうね」
シゴトのフカボリ
バス運転手の一日
12:30
出勤
12:40
点呼、バス点検、窓拭き
14:00
担当路線へ(ピストン運行)
16:00
小休憩
16:30
担当路線へ(ピストン運行)
19:00
業務終了、洗車、点検
19:30
退勤
※ばんけいバス運転手の一日(遅番)
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
バス運転手の必携「日報」
正式には「乗合(貸切)運転日報」。運行時間や乗客数など、その日の運行内容の詳細を記録するもの。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

バス運転手は、運転のテクニックだけではなく、乗客の安全を守るという心構え、法令からマナーまで全てを遵守する意識など、プロの誇りを持つことができる職業だと思います。

札幌ばんけい株式会社

地下鉄円山公園と盤渓を結ぶ『円山線』、地下鉄発寒南と真駒内を結ぶ『発寒南・真駒内線』の運行のほか、盤渓エリアや道内観光などの貸切にも対応しています。

住所
北海道札幌市中央区盤渓475番地
TEL
011-644-3731
URL
https://bankei-bus.com/

お仕事データ

安全・確実にお客様を輸送
バス運転手
バス運転手とは
お客様を気づかいながら、
目的地へと安全に走行!

バス運転手の仕事は「路線バス」「高速バス」「観光バス」「送迎バス」に大きく分けられます。路線バスは地域住民の足となり、決められた時間とルートを安全に走行。高速バスは出張や帰省のお客様を乗せて、主に都市と都市を結ぶ高速道路を走ります。観光バスは修学旅行や団体ツアーなどの観光に使われる観光産業の要。送迎バスは介護施設や幼稚園、各種スクールなどを利用する人の移動手段です。いずれもただ運転するだけではなく、乗務前の車両点検や空気圧チェック、乗車中に具合が悪くなった方の対応など、お客様の安全を守るための気づかいを求められます。

バス運転手に向いてる人って?
ふだんから健康管理の意識が高く、
マジメにコツコツ頑張れるタイプ。

お客様を安全に目的地まで運ぶためには健康管理が重要。体調の悪化から集中力を欠いてしまったり、運転できなくなってしまうと思わぬ事故につながりかねません。乗務前には健康チェックを行いますが、運転手として働くからにはふだんから心身の状態を把握しておく必要があります。また、常に時間を気にしながら、正確に運転することが求められるので、マジメにコツコツ頑張れる人も向いているでしょう。お客様と会話をするなど人と接するのが好きなタイプも活躍できるはずです。

バス運転手になるためには

バス運転手に必須の資格が「大型第二種自動車運転免許」。この免許の取得条件は普通自動車運転免許か大型一種自動車運転免許、もしくは大型特殊自動車免許を取得し、通算3年以上が経過していること。バス会社の多くは、「養成制度」を持ち、会社負担で大型第二種免許を取得させてくれるので安心してください。入社後は停留所の位置や地理の勉強、アナウンスの練習、実技訓練など研修の手厚いところがほとんどです。

ワンポイントアドバイス
バス運転手の労働環境は改善傾向に。
活躍のフィールドも広がりそう!

かつてはバスの運転手といえば長時間労働で過酷な仕事のイメージ。ところが、ここ最近は高速バスの事故などにより安全管理が見直され、各社は若者や女性の積極的採用、人材定着のための取り組みに力を入れて労働環境を改善しているようです。地域に欠かせない路線バスはもちろん、シニア層向けの観光バスツアーや電車が通っていない地域のコミュニティバスなど、バス運転手のフィールドも広がっています。