門間 美祐さん
インタビュー公開日:2021.05.11

求人情報の子豚の写真に、
「一目ぼれ」しました(笑)
登別市街からクルマで約20分。のどかな農業地帯の一角に、有限会社ビィクトリーポークの登別農場が見えてきました。さっそく事務所へ…の前に、まずはシャワーを浴び、指定の衣類や長靴に交換する必要があるなど、防疫のための衛生管理を徹底していることが伺えます。
「ウチでは、種豚(しゅとん)と呼ばれる繁殖や品種改良のための雌豚も飼養し、道内各地の養豚農家へ届けています。万一でも疫病を持ち込んでしまうと被害が広域に及んでしまうので、検温やシャワー、消毒などを徹底しているんです」
こう教えてくれたのは養豚スタッフの門間美祐さん。高校卒業後はカメラの水晶体を手がける工場に就職。その後、販売職の仕事を経て、ビィクトリーポークに転職しました。
「自宅で犬を飼っていたり、牧場で馬とふれ合ったり、もともと動物が大好き。何気なく求人情報を眺めていると、ウチの子豚たちの写真が目に留まり…一目ぼれしたんです(笑)」
作業の手を止めてでも、
教えてくれる先輩ばかりです。
登別農場は、豚の繁殖から肥育(出荷できるまで太らせること)まで一貫して担っています。門間さんは入社後1カ月ほどかけて、妊娠前の母豚の管理から出産のサポート、豚を太らせるための餌やりまで、各部門のアウトラインを一通り教わりました。
「農場全体の流れをある程度理解できたところで、分娩舎に配属されました。最初に携わったのは、発情傾向を見ながら種付けする作業です。それほど難易度が高くないため、豚の様子を観察するトレーニングも兼ねられました」
動物が好きとはいえ、門間さんは養豚に関してまったくの未経験。右も左も分からないことばかりでしたが、周りの先輩は質問すると作業の手を止めてでも丁寧に答えてくれる人ばかりなのだそうです。
「力仕事もゼロではありませんが、男性スタッフが率先して手伝ってくれるので助かります。温かい雰囲気のおかげで、今は随分と仕事に慣れることができました」
最近は豚の「お腹すいた」が、
分かるようになりました(笑)
分娩舎では助産の他にも、見回りや餌やり、母豚と子豚のケア、清掃といったさまざまな仕事を担わなければなりません。
「分娩頭数が多い日はお産に付きっきりになりがちですし、少ない日は豚舎の細かな掃除をするなど、状況によって業務内容は変わります。ただ、夜間のお産は豚に任せているため、夜の見回りといった夜勤がないところは働き手にはメリットです」
登別農場は新設されたばかりということもあり、豚舎の温度や湿度、明るさの管理は自動制御なのだとか。機械やセンサーが環境を整えてくれることで、豚により目が行き届きやすいと門間さんは表情を緩めます。
「出産後の母豚や生まれたばかりの子豚は、特に繊細なケアが必要。わずかな表情の変化や、いつもと違う鳴き声で異常を見つけることも大切です。おかげで最近は『お腹すいた』といっているのが、何となく分かるようになりました(笑)」
体重や発育の「数値」でも、
豚は愛情に応えてくれます。
豚は1頭の母豚から10〜20頭の子豚が生まれる多産の動物。登別農場の分娩舎は4つの部屋に分かれ、各36頭の母豚と多くの子豚がにぎやかに暮らしています。
「子豚は母豚の初乳からたくさんの免疫をもらいます。一方で、体の大きさや発育にはバラツキがあるもの。次のステップとなる離乳舎に移るには一定の体重に満たなければならないため、小さい子はミルクをよく出す母豚に『里子』に出すなど調整が必要なんです」
門間さんは初めのうちこそ、豚がかわいいということだけに夢中になっていたと正直に語ります。けれど、今は別の部分にも大きな手応えを感じるのだそうです。
「豚は手をかければかけるだけ、愛情を注げば注いだ分、体重や発育の数値でも応えてくれる動物。離乳舎に移るための基準値に達した時は、本当にやりがいを感じます。ただ、豚の仕草や表情に癒やされるなど、『かわいい』という気持ちは依然として変わりませんが(笑)」
みなさんの「おいしい」は、
養豚場で働く意義でもあります。
取材中、胸につかえていた疑問があります。それは命を生み育む仕事だからこそ、対局にある「死」とも直面するのではないかということ。門間さんはどう考えているのか、思い切って尋ねてみました。
「確かにお産の際、すでに息を引き取っている子豚もいます。最初のうちはそんな死を目の当たりにするたびにショックを受けました。けれど、今はお腹から生きて出てきてくれた子豚たちに、その子の分まで手をかけ、愛情を注いであげるんだって強く思うようになったんです」
畜産の仕事は手塩にかけて育てた動物が最終的には出荷されます。だからこそ、門間さんは一日一日を大切にして豚に接しているのです。
「登別農場のお肉が消費者のみなさんに提供されて、『おいしいね』と笑顔になってくれたら私も報われる気がします…いえ、それこそが養豚場で働いていて良かったと思える意義でもあるんですよね」
真剣な眼差しでポツリとつぶやいた言葉が実に印象的でした。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
テールカッター
生まれて少し経った子豚のしっぽを切る道具。というのも、しっぽが長いままだと他の子豚にいたずらされたり、傷から雑菌が入って化膿してしまったりするため、予め短くしておいたほうが子豚たちのためにも良いのです。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

ウチの農場では人の都合ではなく、「豚の都合」に合わせ、愛情を持って接するようにみんなが意識しています。それに、私たちは豚さんたちのおかげで仕事ができているため、感謝を忘れてはいけません。同様に自分をサポートしてくれる周囲の方にも「ありがとう」の気持ちをいつも抱いています。

有限会社ビィクトリーポーク

仁木町と苫小牧市、そして2019年に新設した登別市の農場で合わせて約3万5千頭の豚を飼養。道内屈指のスケールとリキッドフィーディングという餌づくりの技術から、「樽前湧水豚」や「樽前ホエイ豚」、「小樽美米豚(おたるみらいとん)」といったブランド豚も開発。大手スーパーや飲食店のニーズにも応えながら、多くの人の「食」を支えています。

住所
北海道余市郡仁木町長沢南320(本社)
北海道登別市来馬町488 (登別農場)
TEL
0135-33-5566(本社)
URL
http://www.victory-pork.jp/

お仕事データ

肉や乳製品、卵を生産。
畜産・酪農家
畜産・酪農家とは
牛や豚、鶏、羊などを育て、
人の命をつなぐ生産物を!

畜産・酪農家は牛や豚、鶏、羊といった家畜を育て、乳製品や肉、卵、皮革などを生産する仕事。肉牛や豚、鶏を飼養して畜産物(肉・卵など)を生産するのが畜産農家、乳牛を育てて牛乳や乳製品をつくるのが酪農家と大別されます。畜産農家は主に飼養する家畜の餌やりや体調管理、畜舎の清掃、理想の肉質に向けて太らせる作業などを行います。酪農家は乳牛のお世話に加え、搾乳、繁殖(生乳を出すために出産させる)、牧草の栽培などが主な役割。最近は乳牛と肉牛を飼育する「乳肉一貫複合経営」も増えているようです。

畜産・酪農家に向いてる人って?
動物が好きであることに加え、
家畜と根気強く向き合える人。

畜産・酪農家は牛や豚、鶏、羊などと毎日ふれ合う仕事。動物が好きな人には向いているでしょう。一方、力仕事が多かったり、家畜を病気やストレスから守るために日々チェックを欠かせなかったり、大変な作業も少なくありません。そのため、仕事に根気強く向き合う姿勢も求められます。生き物を相手にすることから、勤務時間や休みが不規則なケースが多いという覚悟も必要です。

畜産・酪農家になるためには

畜産・酪農家になるために必要な資格や学歴はありません。一般的には農業・畜産系の学科やコースを置く専門学校・短大・大学に進学し、知識や技術を習得する人が多いようです。また、家業を継ぐ他、中学・高校卒業後に牧場に就職し、餌やりや牧草づくり、農機具の扱い方などを現場で学ぶこともできます。畜産・酪農家として新規参入するには大きな資金や経営スキルが必要なため、まずは牧場で経験を積むのが第一歩でしょう。

ワンポイントアドバイス
担い手をサポートする自治体が増え、
牧場の労働環境も改善傾向に!

畜産・酪農家の戸数は減少傾向にある一方、日本の食糧を支えるために不可欠な仕事。そのため、担い手を呼び込むための誘致や支援、就農サポートを行う自治体も増えています。また、畜産・酪農家は休みなく働くイメージでしたが、最近は搾乳や餌やりをサポートする酪農ヘルパーを活用したり、牧草の収穫などを外部に委託するコントラクターを活用したり、労働環境の改善に力を入れている牧場も多いようです。

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