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潜水士_東山  雄太さん
インタビュー公開日:2025.05.12

潜水士として海洋調査の仕事を担当。
特別な場所、特別な役割にやりがい。
海上保安庁の活躍を描き、人気を呼んだテレビドラマでは、海に潜って海難救助にあたる姿が描かれていました。海洋の自然を描いたドキュメンタリーでは、岩礁のなかをダイバーが進むようすを目にします。海や河川に入ってさまざまな仕事をする「潜水士」。特殊能力が求められ、選ばれた人だけが就ける仕事という印象があります。
「確かに、それらも潜水士の仕事ですが、私が携わっているのは水産関係や建設関係の業務。なかでも、海洋調査と呼ばれる仕事が多くなっています」
ハツラツとした表情で答えてくれたのは、東山雄太さん。潜水士として働き始めて5年目になります。海に潜るのが好き、猛暑の夏は海中にいると心地いいと、笑います。
「海のなかでの仕事と聞くと、危険で、キツくてというイメージを抱くかもしれません。もちろん、危険はゼロではありませんが、きちんと手順などを守れば大丈夫ですし、厳しい訓練を繰り返す海難救助などとは異なり、経験を積むなかで自然にスキルを身につけることができます」
とはいえ、陸(おか)では想像もできない、海中という特殊な場所が職場。だからこそできる仕事、特別な役割を担うこともやりがいにつながっていると、言葉に力がこもります。
豊かな漁場に欠かせない藻場の状況を、
専門の調査法で調べ、写真撮影を実施。
東山さんも話すように、勤務する「シーワークス」がメインで行っているのは海洋調査。主に豊かな漁場を守るための調査を担っているのだそうです。
「海藻や海草が茂る沿岸域の海底を藻場(もば)と呼びますが、その植生が減ったり、なくなってしまう磯焼けという現象が起きている場所に潜り、変化のようすを調べています」
藻場は、魚の稚魚などが外敵から身を守る隠れ場所となります。さらに、餌となる生物が棲みつくことでその生育を支え、豊かな漁場が形成されます。その藻場の状況を調べ、海藻・海草を増やすための対策を行う際に必要となるデータをまとめることが、東山さんの仕事というわけです。
「正方形の枠を海底に置き、その枠内にどんな藻が何%生えているか、そこは岩盤か砂地かといった状況を確かめるコドラート法という調査を実施します。そして、水中用のハウジング(防水ケース)に入れたカメラで、その現地の状況を撮影するとともに記録をつけ、陸へと戻ってデータとしてまとめるんです」
撮影の仕方ひとつで、記録写真の鮮明度などが変わってしまうところが難しいと東山さん。実に専門的な仕事です。
自衛隊、建設業を経て潜水士の道へ、
カッコ良さそう!を動機に飛び込む。
東山さんの会社「シーワークス」は、かつて、潜水士として働いていた職場の上司が2024年に立ち上げた、まだ新しい会社です。いわば、オープニングメンバーとして設立に加わり、中核スタッフとして海洋調査の第一線に立っています。
「それまでは、一社員として潜水の仕事をしていただけですが、今は微力ながら会社のことにも目が向くようになり、仕事にも力が入っています。そうした意識の高まりもあって、こんなにおもしろい仕事はないと、改めて実感しています」
仕事への意欲にあふれる東山さんですが、もともと海が好きだったとか、潜ったことがあったわけではありません。高校卒業後は陸上自衛隊に入隊。国を守る仕事、そんな大きな役割に憧れたのだと話します。その後、地元・小樽の建設会社で舗装関係の仕事を経験。潜水士の仕事に出会ったのは24歳の終わり頃のこと。
「妻の母が、現社長の知り合いだったというご縁で、潜水士をやってみないかとお誘いいただいたんです。経験はゼロでしたが、カッコよくておもしろそうな仕事というイメージがあり、興味を持ちました。当時の仕事より、給料が高い業界ということも魅力的でした(笑)」
未経験でしたが、一から十まで必要なことを教えてくれる世界なので、無理なく慣れていくことができたそうです。
指導を受け数カ月で潜水・浮上が可能に。
データ整理のパソコン作業も一から覚える。
「まずは、潜水士の国家試験を受け、最初は浅瀬での訓練。船から降りて海に入り、海中の上下に先輩がついてくれるなか、基本動作を繰り返していった、というのが、私の潜水士人生の始まりでした。その後、潜水・浮上ができるようになると、実際の現場に付いていき、業務内容を見るところからスタートでした」
ゼロから海に入って数カ月で、そこまでのレベルに成長した東山さん。最初は、付いていくだけで精一杯だったそうですが、やがて実際の作業の手伝いを始めると、先輩が簡単そうにやっていた作業の難しさを実感したと振り返ります。
「水圧による鼓膜の圧力を開放する耳抜き(*)が苦手だったことと、ウェットスーツに比べて保温性が高いものの、動きにくさのあるドライスーツに慣れるまでは、大変さも感じました。ただ、それも、知らない間に身体が順応していきました」
データをまとめる際に使うパソコン作業は、今でもちょっと苦手、と告白する東山さん。パソコンには潜水士の仕事に就いてから初めて触り、これも一から覚えていったのだとか。

*鼻をつまんで、唾を飲み込むといった方法で耳のなかの圧力を調整すること。飛行機などに乗った時などにも行われます
タイミングの測り方が仕事のポイント。
思い通りに作業が進むことが喜びに。
朝、調査を行う漁港に集合し、作業内容・手順などを確認してから潜水作業。必要に応じて上昇し、潜水してを繰り返しながら調査を行い、午後3時頃には作業終了、というのが海洋調査の一つの業務パターンなのだそうです。
「海が荒れると作業ができません。天気図とにらめっこし、気象状況を推察するほか、漁師さんなど現地の方々にもうかがって、日程を決めていきます。タイミングの取り方が、この仕事の難しさの一つかもしれません」
ドライスーツは、寒さに強いことが特徴。とはいえ、冬場は長く海中にいると冷えるし、逆に夏場は暑さに悩まされることもあるそうですが、身体を動かすことが好きなので、楽しさの方が大きいのだと話します。
「海のなかでは、想定外のことが起きて予定の作業がしづらいこともありますが、そこで工夫しながら自分の思い通りに進められた時は、〝やった!〟という感じになりますね」
難しい仕事の方が、テンションがあがると笑う東山さん。道内各地の海岸に調査に赴き、その地域ならではの風景、おいしい食べ物を楽しめるのも仕事の魅力なのだとか。
「海の仕事は大好きですが、休みの日には海に行きません(笑)」と冗談めかす東山さん。潜水士としての余裕も生まれているようです。
シゴトのフカボリ
潜水士の一日
7:30
漁港に集合。その日の作業内容、注意事項の共有
8:00
準備を整え、潜水作業を開始
12:00
昼食・休憩
13:00
潜水作業
15:00
作業終了、片付け、帰社後データ整理
16:30
終業
*午前と午後には休憩があるほか、潜水作業中、ボンベ交換やトイレのため随時、陸に上がります

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

記録用ボード
藻場の調査を行う際、写真撮影と同時に植生や状況を記録するためのボード。水中でも書ける防水用紙を貼ったお手製の道具です。潜水士ならではの工夫がみられます。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

ダイビングなどの経験がない方にとって、潜水士という仕事は遠い世界に感じられるかもしれませんが、一から訓練すれば誰でもできるようになります。ぜひ、チャレンジしませんか? 一緒に潜りましょう!

株式会社シーワークス

2024年設立。20〜40代の潜水士が在籍し、漁場などの海洋調査、魚介類の採取、海中での建設工事などを手がけています。

住所
【本社】北海道古宇郡泊村茅沼村臼別216
【小樽事業所】北海道小樽市花園1丁目4-20
TEL
0134-64-7920

お仕事データ

水中作業のスペシャリスト。
潜水士
潜水士とは
水の中で人命救助や捜索、
土木建築などを行う仕事。

潜水士は海や河川、湖、下水、ダムといった水の中に長時間潜り、さまざまな作業を行うスペシャリスト。人命救助や捜索の他、海底調査や護岸工事といった土木建築作業、海中で魚介類を捕る水産物採取、沈没船や海中に沈んだものを引き揚げるサルベージ作業など、仕事内容は多種多彩です。潜水方式には、スクーバ式、ヘルメット式、フーカー式があり、作業目的や作業時間、水温、潜水深度、海流などによって潜水用具を選びます。潜水士は水中作業のスペシャリストなのです。

潜水士に向いてる人って?
タフな体力と精神力を持ち、
チームワークを大切にできる人。

潜水士は水中に潜り、体を動かすことが多いため、相応の体力が必要です。過酷な状況の中でも冷静に作業ができるようタフな精神力も求められます。潜水業務では、ミッションを素早く安全に完遂させるため、複数の潜水士がチームになって仕事を進めることから、チームワークが何よりも重要なポイント。スキルアップのために日々コツコツとトレーニングを積む姿勢も必要です。

潜水士になるためには

潜水士になるために特別な学歴は必要ありません。ただし、潜水業務を行う会社や組織に就職して働くためには、国家資格の「潜水士免許」を取得する必要があります。潜水士免許試験は筆記試験のみで、実技試験はありません。受験資格もないため(免許の交付は18歳以上)、比較的合格者は多い資格です。ただし、潜水士として潜水技術を身に付けられるまでには長いトレーニング期間が必要。民間の潜水会社では、先輩から教わりながら訓練を続けてスキルを高めていくのが一般的です。

ワンポイントアドバイス
難しいからこそ待遇が良く、
独立の道も開ける仕事。

近年は津波対策をはじめ、海洋建設業の分野で潜水士の需要が増加しています。未経験者でも、熱意次第で潜水士候補として採用する会社が増えてきているようです。難易度の高い仕事だからこそ、この道でスキルアップしていくと、給料や待遇に跳ね返るケースが大半。人によっては独立してフリーの潜水士としてさまざまな仕事を引き受けたり、大学や研究機関とともに海洋調査活動を行ったりすることも可能です。