藏田 泰弘さん
インタビュー公開日:2020.06.11

これがなければ、工事が始まらない
住宅建設工事の安全を守る足場
住宅の建設現場をよく見ると、鉄パイプのような部材でつくられた枠組みが、建物の外周を取り囲むように設置されています。これは足場と呼ばれ、大工職人を始め、設備工事、電気工事などの各技術者が乗って、安全に高所での工事を行えるようにするためのものです。
「足場専門の施工スタッフが、必要な部材を図面から割り出して現場に運び、組み立てます。そして住宅の工事が終了する頃、再び現場に行って解体・撤去しています」
そう教えてくれたのは、足場の施工を請け負っている日本建機サービス販売の藏田泰弘さん。転落事故等を防止するため、四半世紀ほど前から、工事を始める前にまず足場を施工すること(足場先行工法)が、厚生労働省の通達として示されているのだそうです。
「工事が終わると無くなってしまうものですが、これがなければ工事が始まらないし、安全も守れない。そんな大切なパートを担っていることが誇りです」
足場が的確に設置されているか。藏田さんの仕事は、その施工管理を行うことです。
組み立ての手順やルールを確認し
現場で足場の施工スタッフを指導
住宅会社からの依頼を受け、専属の足場施工スタッフ(施工班)が資材ヤードから必要な部材をチョイスし、現場で組み立てるというのが、足場設置の流れ。藏田さんの業務のひとつが現場安全パトロール。その現場に赴き、でき上がった足場の点検を行うことです。
「法律で定められている足場の仕様、それを守るために自社で設けている作業手順・組み立てのルールが守られているかをチェックします。タイミングによっては足場の組み立て中に技術的な指導を行うこともありますね」
現場における指導のほか、毎月1回、道内各地にある営業所ごとに安全衛生協議会という、施工スタッフを含めて全員が集まる会議を開催。たとえば、関連する法改正が行われた場合には、その内容などの情報を共有するとともに、足場の組み立て現場の意識向上を図り、技術の向上を目指すために士気を高めるコミュニケーションの場なのだそうです。
「普段、現場を回れるのは札幌近郊が中心となりますが、年2回は道内全域の営業所を訪ねる一斉パトロールというものを実施し、現地の職人さんに直接、指導する機会としています」
住宅建設現場の安全の要となる足場だけに、妥協や気の緩みは許されないのだと、力を込めて語る藏田さんです。
自動車整備を学んで、気づいたこと
パワーを生かせる建設の仕事に注目
同社で技術管理の仕事を始めて6年が過ぎた藏田さんですが、高校卒業後は自動車整備士を目指し、専門の短大で学んだそうです。
「クルマが好きでカスタムに興味があったのですが、あくまでも自分の趣味の世界の範囲。整備を学んでいくなかで、そのことを実感しました。仕事としてやりたかったわけではなかったんだと」
そこで、就職に当たって目を向けたのが建設業でした。長く柔道を続け、体力には自信があったという藏田さん。自分のパワーを生かせる仕事にチャレンジしたいと考えたのだそうです。
「とはいえ、建設業についての知識はゼロ。ハローワークで検索し、自宅から近いなど、希望する条件にマッチした設備工事の会社に決めたことが、業界デビューとなりました」
携わったのは大型商業施設などの設備配管工事。2年間ほど勤務した頃、たまたま知り合った足場施工の親方に誘われ、足場の世界入ります。現在、藏田さんが指導に当たっている施工スタッフと同じ、足場の組み立ての仕事に8年間ほど従事しました。
「その時から当社に出入りしています。現在は社員となっていますが、通算するともう15年近くになりますね」
ちょっと感慨深そうな藏田さんです。
一から学んだ法的規制などの知識
コツコツ取り組み親方の信頼を得る
足場の施工スタッフとしての、藏田さんの働きぶりを見ていたのが現在の上司でした。技術を頼りに現場に立つ仕事にはやりがいを感じていましたが、年齢を経ていくなか、将来的なことも考え始めた時期だったといいます。
「そんな私の思いに耳を傾け、社員として施工管理の仕事をしないかと誘っていただきました。現場経験があったことも大きいと思いますが、今でも感謝しています」
もっとも、足場を組む技術は持っていても、法的な規制や安全面のマニュアルなどについては、一から勉強する必要があったそうです。
「しばらくは、必要なことを覚えつつ、現場で指導しながら学んでいく日々でした。最初は、施工スタッフに質問されても答えられないことが多くて…。正直、大変さも感じました」
とにかくコツコツと取り組むなかで、熟練の親方からも信頼を寄せられるようになっていったという藏田さん。現場での指導のほか、資材ヤードで足場の部材を管理することも大切な仕事です。劣化したり傷んだりした部材は、事故のもとにもなるため、しっかり選別し、必要に応じて補修も行うそうです。
「現場で部材に直接触れる職人さんにお願いして、問題がありそうな部材を選り分けてもらっていますが、そんなことが頼めるのも、信頼関係があるからなんですね」
転落事故等が起きてからでは遅い
その意識を現場に浸透させる使命
足場の組み立て現場を回って技術指導を行う日、資材ヤードで部材の管理を行う日と、1週間単位で割り振り、自ら予定を立てて業務に当たっているという藏田さん。現場を訪問する日にはルートを決めて札幌、石狩、苫小牧の範囲で1日数件以上、顔を出しています。
「現場で施工スタッフに指示・指導を行った結果、その内容がしっかりと守られ、作業に反映されているようすを目にする時には、安心すると同時にやりがいを感じますね」
足場の組み立ては施工班単位で行われますが、班ごとに組み方が若干異なってしまうことがあり、そこで指導を行うほか、足場を使う大工職人や技術者の声を聞きながら修正を促すこともあるといいます。
「(足場の間隔が)狭くて作業しづらいといった声を聞き取り、足場づくりに反映させていくのも大切な仕事ですし、そうした対応を当社のアピールにつなげるという役割を担っています」
同時に、転落事故などが起きてからは遅いという意識を、常に施工スタッフに浸透させることが、自分に与えられた使命なのだと話す藏田さん。足場を通して住宅の建設現場の安全を支える仕事が、自らの誇りをささえる〝足場〟にもなっているように見えました。
シゴトのフカボリ
足場施工管理の一日
8:40
出勤・資材ヤードの部材整理
10:00
現場安全パトロール
12:00
昼休み、休憩
13:00
現場安全パトロール
15:00
パトロール結果の報告書作成
16:00
安全パトロール報告会議
18:00
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
安全帯・ヘルメット・コンベックス
現場安全パトロールでは、足場に登って点検を行います。そこで自らの安全を守る安全帯とヘルメットは必需品。現場ではフルハーネスタイプ、資材ヤードでは腰ベルトタイプの安全帯を着用して作業を行います。チェック用のコンベックスも常時携帯します。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

建設業界に入った時も、足場の施工スタッフになった時も、未経験からのスタートでした。大変なこともありましたが、未知のことに好奇心をもって取り組んできました。楽しく学べばきっと、成果につながりますよ!

日本建機サービス販売株式会社

1972(昭和47)年の創業以来、建設機械・機材のレンタルと販売に加え、現在主流となっている「くさび緊結式足場」の施工を手掛けています。

住所
北海道札幌市清田区北野5条5丁目16番23号
TEL
011-882-1991
URL
https://www.nihonkenki-sh.co.jp

お仕事データ

工事現場の司令塔
施工管理
施工管理とは
工事を円滑に進めるためには
欠かせない仕事。

建設工事や土木工事の現場で発注者と実際に工事を行う職人さんとの間に入り、人や資材の手配、スケジュール調整、予算管理など、工事を安全かつ円滑に進め、目的を実現するためのさまざまな業務を行います。大きな施設を建てるほど、工程も複雑になるため施工管理の重要性は大きくなります。

施工管理に向いている人って?
思い通りにならなくても慌てない。

現場での橋渡し役を担うことが多いため、コミュニケーション能力は欠かせません。スケジュールやお金の管理も行うので、計画的に物事を進められる人に向いている仕事です。工事には不測のトラブルもつきものなので、状況に合わせて対応できる柔軟性がある人も向いているでしょう。

施工管理になるためには

小さなリフォーム工事から大規模な土木工事まで施工管理の領域は広く、一般的には工事会社などに入社して、現場での仕事を覚えることになります。施工管理には「施工管理技士」という国家資格があり、工事の内容によって建築施工管理技士、電気工事施工管理技士、管工事施工管理技士など6種類に分かれています。大規模な現場の管理をするためにはこうした資格も必要となります。

ワンポイントアドバイス
分野が異なる工事でも活躍可能。

施工管理の仕事は一般的には馴染みが少ないのですが、工事現場には欠かせない仕事です。建設業界で働く上で「施工管理技士」の資格が役立つ場面は多く、取得しておくと出世や転職にも有利と言われています。