後藤  武志さん
インタビュー公開日:2023.07.10

ニーズが高まる
キャラクターモデル開発!
アニメーションは従来、キャラクターの位置やポーズが少しずつ異なる絵を描いて(作画)、それを連続して見せることで「動き」を表現してきました。現在もこの手法で作られる作品は多くあるものの、それと一線を画す3DCGを使ったアニメーションが、急速に存在感を大きくしています。
3DCGはコンピュータの中に3次元のモデル(人形)を作り出し、それに動きをつけてコンピュータ内で映像化します。一度、3次元モデルを作ってしまえば、どのような動きも表現できるため、何度もキャラクターの絵を描く必要はなくなります。最近では作画作品の一部に3DCGを使ったり、全編3DCGで作品が作られるのも当たり前になりつつあり、またアニメだけでなく、ゲームやメタバースなど次世代エンタメでもリアルな3DCGのニーズが高まっています。
2022年7月に札幌に誕生したカヤックポラリスは、そんな3DCGによるキャラクターモデルの制作(モデリング)を手がけており、「面白法人」としても知られるカヤックグループの一端を担っています。
「カヤックグループなら、アニメはもちろん、さまざまなエンターテインメントに携われる可能性があると思って」と話すのは、会社設立直後から勤務するCGデザイナーの後藤武志さん。仕事のやりがいやこれまでの歩みについて聞いてみました。
ゲームを通じてCGの世界に興味を持ち、
専門学校でデジタル・クリエイティブを学ぶ。
後藤さんの出身は道南、南茅部町(現・函館市)。幼少期に熱中した「ファイナルファンタジーシリーズ」や「バイオハザードシリーズ」などのゲームを通じてコンピュータグラフィックス(CG)の世界に興味を持ちました。
「子どものころから工作など、ものを作ることに楽しみを感じるほうでした。ゲームをきっかけにデジタルのものづくりも面白そうだと思い、工業高校の情報技術学科に進学しました。高校では、他の学科に比べればパソコンに触れる機会は多かったものの、簡単なプログラムを作ったり、電子工作をしたりする授業が多く、残念ながらCGについて学ぶ機会はありませんでした」
専門知識を学ぶにはやはり札幌でと考えた後藤さんは、高校卒業と同時に札幌の専門学校に進学。デジタル・クリエイティブコースに在籍し、本格的にCG制作について学び始めました。
「専門学校に入って初めてCG制作ツールにも触れました。ここでモデリングの基礎を学び、卒業後はゲームやアニメの制作に携われたらと考えていました」
CG制作会社への就職は叶わぬも、
独学でスキルアップを目指す。
夢を持って学んでいた後藤さんでしたが、就職活動でCG制作会社に入社することは叶いませんでした。
「代わりに携わったのはホテルの筆耕という仕事です。筆耕は式典などに使う招待状の宛名書きや席札などを書く専門部署で、昔は手書きが一般的でした。私が入社したホテルではデジタル制作に変わっていて、IllustratorやPhotoshopなどのグラフィックソフトを使い、『〇〇家披露宴』といった宴会場の看板や『第◯回〇〇学会』などの横断幕、ホテル内で使うメニューやパンフレットなど、さまざまな制作物を手がけました。言ってみれば『ホテルの専属デザイナー』のようなポジションです」
仕事にはやりがいを感じていたものの、やはりCGの世界で働きたいという夢があった後藤さんは、「いつかチャンスがあれば」と、独学でCG制作の技術も磨いていました。
「ホテルの仕事もあるのでそれほど時間を割けていたわけではないのですが、求人に応募するにはポートフォリオも必要なので、少しずつ準備していたという感じです。でも、それが功を奏して、ホテル勤務が10年になるころ、アニメのキャラクターモデルを作る会社に転職することができました」
自分が手がけたCGのアクセサリーが作品に。
憧れた仕事にたどり着けた嬉しさ。
「ようやくこの仕事にたどり着けたという嬉しさがありました」と転職した時の心境を振り返る後藤さん。長く憧れていた仕事だけに喜びもひとしおだったといいます。
「最初に携わったのはアニメーション作品で登場人物が身に付けるアクセサリーを3Dで制作する仕事でした。自分が作ったアクセサリーが実際に作品に登場した時はなんとも言えない感慨がありましたね」
ここで改めて3DCG制作の仕事の流れを聞いてみました。
「3DCGはキャラクターの正面、横、後ろを描いた2次元のイラストから、3次元の立体を作り出す作業です。この時、正面から見た形状と横から見た形状の整合性が取れていないのはむしろ当然で、それをどう補っていくかがこの仕事の肝になる部分。360度どこから見ても違和感のないモデルを作るには、元のイラストに描かれていない部分を補う想像力も不可欠です。3次元で形を作った後は、『骨』を入れて可動域を設定します。この時、動きに無理がないかもモデルの良し悪しを決める重要なポイント。最後はモデルに色を付けたり、細かな設定を施して仕上げていきます」
CGデザイナーとなって自身の仕事も説明しやすくなったと笑う後藤さん。
「以前は『筆耕』と言ってもなかなか理解をされませんでしたが、アニメのCGを作っていると言えば大抵の人が理解してくれます」
黙々とキャラクター造形に
没頭している時間も結構好きなんです。
CGデザイナーとなって5年ほど経験を積んだ後、後藤さんはさらなるスキルアップを目指してカヤックポラリスに転職をします。
「もっといろいろな経験を積んでみたいと考えていたころに、カヤックが札幌に3DCGスタジオを立ち上げるという噂を耳にしたんです。『面白法人』で知られるカヤックなら、きっと面白い仕事にも携われるのではと思い、求人に応募しました」
現在は7名のスタッフの一人として、カヤックグループや「オレンジ」「グラフィニカ」といった日本を代表するアニメスタジオから依頼を受けて、キャラクターモデリングを担当。少人数だからこそコミュニケーションもスムーズで、働きやすい環境だと教えてくれました。
「私が思う3DCG制作の面白さは、コンピュータの中ではあるものの、自分が作ったものが形になっていくことです。もちろん、それがアニメやゲームの作品に登場した時は喜びもひとしおですが、自分としては、画面に向き合いモデルの造形に没頭している時間も好きなんです(笑)。納得の行くモデルが完成した時の達成感が、仕事の原動力になっています」
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

3DCGアニメーション制作ソフト「Blender」
プロの制作現場でも使用されるソフトでありながら、オープンソースであるため無料利用が可能。
「ホテル勤務時代にはこのソフトでポートフォリオを制作しました。3DCGがどのようなものか試してみたい人にもオススメ」
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

どんなことでもまずは「やってみる」ということが大切。そうすれば少しずつでも確実に前に進むことができます。

株式会社カヤックポラリス

「面白法人」で知られる株式会社カヤックのグループ会社。メタバースからアニメ映像制作まで一貫して対応できる新しいスタイルの3DCGスタジオ。

住所
北海道札幌市白石区東札幌5条1丁目1−1 札幌市産業振興センター Sapporo Business VILLAGE 2FI
URL
https://www.kayacpolaris.com/

お仕事データ

非現実を現実に表現する!
CGクリエイター
CGクリエイターとは
デジタルテクノロジーを使って、
グラフィックやアニメーションを制作

CGとはコンピューター・グラフィックスの略。文字通りコンピューターを使って、ゲームやアニメなどグラフィックやアニメーションを制作します。大きく分けて2Dと3Dに分類され、2Dは平面で表現し、3Dは立体での表現です。3Dはさらに動きの元となる立体物をつくるモデラー、動きを付けるアニメーター、特殊効果を付けるエフェクターなどそれぞれのプロフェッショナルに細分化されています。

CGクリエイターに向いてる人って?
好奇心旺盛で、
最新技術へのアンテナを張れる人

映像を取り巻く世界は日々進化を遂げ、現実と区別が付かないようなリアルなCGを制作する技術も実現しています。その制作に用いるソフトも次々と新しい機能が増えたり、新製品が生まれたりするため、積極的に最新技術を学ぶ姿勢が必要です。またクリエイティブな世界をつくるための想像力や、円滑なチームワークのためのコミュニケーション能力も必須。納期に追われる機会も多いため、粘り強く取り組む根気やハードな働き方に耐える体力も求められるでしょう。

CGクリエイターになるためには

学歴や資格は必要ありませんが、コンピュータースキルは必須。特に3DCGは「Maya(マヤ)」や「Blender(ブレンダー)」といった制作ソフトを使うための知識や技術が必要なので、専門学校や短大、大学でスキルを身に付けた後、ゲームやアニメ関係の会社に入って覚えるのが一般的です。オンライン講座や書籍など独学で学ぶことも可能なため、スキルを身に付けた後に実際の制作現場で学ぶという選択肢もあります。

ワンポイントアドバイス
将来性高く、チャンスも無限!

3DCGはその誕生以来、アニメ、ゲーム、映画などエンタメを中心に普及してきました。近年は建築や製品のデザイン、医療や化学などさまざまな分野でも活用されていて、今後も他分野にわたって需要が拡大すると見られています。また技術さえあれば国内、国外を問わず活用できるのも特徴です。一流のCGクリエイターとなれば世界の有名スタジオで活躍できるかもしれません。