藤田 真弥さん
インタビュー公開日:2024.10.30

自動車の普及が進む昭和の時代から
洗車機を販売し、やがてメーカーへ。
昭和30年代から40年代にかけて、日本の経済は急激に発展しました。生活が豊かになるなか、普及が進んだのが自動車でした。それにともなって、ガソリンスタンドが増えていきます。自動車は走ると汚れるので、給油のついでにきれいにしたい。そこで登場したのが洗車機でした。昭和43年から洗車機の販売を始め、やがて有数のメーカーとなったのが、藤田真弥さんの勤務するアベテックです。
「当社では、ガソリンスタンド向け、コイン洗車場向けなど20種類ほどの洗車機や洗車関連機器をつくっています。製品の企画・開発から製造、販売、保守まですべて、社内で一貫して手がけていることが特徴といえますね」
入社5年目ながら、すでに製造を担当する自社製品に精通し、誇りを抱いているようすがうかがえます。製造現場の話をする時の生き生きした表情が印象的です。
「洗車機の用途によって機能もいろいろで、新しい製品では高圧洗浄のほか、ムースのような洗剤や雨を弾く撥水剤などを1台で噴射することができ、よりきれいな仕上がりを提供できる製品もあります」
製造現場の技術者ながら、営業担当のような説明からは、自分たちがつくる製品へ自信が現れているようです。
機械の騒音などがない静かな工場で、
すべて手作業で洗車機を組み立てる。
藤田さんの所属は、製造部製造課。自社製品である洗車機の組立(アッセンブリ)作業とともに、完成した製品の検査を担当しています。ものづくりのメインとなる部分です。
「組立作業は、主に2人1組で行っています。組立図その他、各種図面や独自に課内で整備した組立要領書、写真などの資料に基づき、製品ごとの形状・仕様・作業手順などを確認しながら組み立てていきます」
たとえば、ガソリンスタンドなどで使われる、箱型タイプの洗車機では、本体となるタンクに、水を吸い上げて噴射するポンプやホース、ポンプを制御する装置、電気を流す配線やスイッチなど、数多くの部品を取り付けていきます。
「製品製造というと、部品を流れ作業で組み立てる工場を想像するかもしれませんが、当社の製品づくりは多品種少量の組立にも対応できるように、一つひとつ手作業。見た目はちょっと地味ですが(笑)、ものをつくっているという実感は格別ですし、ゼロから組み立て、完成した時の喜びはひとしおですね」
工具を手にした技術者によって、テキパキと作業が行われている工場は、大きな動力や機械を必要としないため、とても静か。業務に集中できるとともに、音や振動によるストレスが少ない、という話に納得です。
オープンで明るい雰囲気に惹かれて入社。
電気系の知識も身につけスキルアップ。
中学生の頃から、ものをつくることが好きだったいう藤田さん。工業高等専門学校(高専)で5年間、機械工学を学び、卒業後は製薬会社に就職。本州にある工場で薬の原料の攪拌や温度管理を行う機械のオペレーション(運転操作)とメンテナンスを担当していました。
「そこで10年間ほど勤務しましたが、家庭の事情から北海道に戻ることになり、2度目の就活。道が主催する合同企業説明会に参加して、出展していた当社と出会いました。工場勤務という働き方になじんでいたのと、高専で学んだこと、前職で経験したことも活かせそうな仕事だと感じ、興味を抱いたんです」
工場見学に訪れたことも、入社のきっかけになったと話す藤田さん。ほかにも検討した機械系の工場もあったそうですが、オープンで風通しのよさそうな同社の雰囲気に好感をいだいたのだそうです。
「組立作業は初めてだったので、先輩や同僚に学びながらのスタートでしたが、見学の時に感じたとおり、なじみやすい環境のなか、安心して覚えてくることができましたね」
機械系は専門でも、電気系統はあまり得意ではなかったそうですが、これも経験を重ねるなかで知識が深まり、新たにスキルアップができたと、うれしそうな表情です。
製品の品質と信頼を守る最後の砦。
組立作業と並んで重要な製品検査。
「たとえば、来月はこの機種を何台つくる、といったように、製品ごとに製造計画を立て、組立作業を行っています。そのうえで、月末までに目標数の製品を完成させ、検査を行って一つの作業が終わるという流れです」
そして、この製品検査が組立作業と並んで重要なのだと藤田さん。なぜなら、藤田さんたちの検査が終わると、ガソリンスタンドなどのお客さんに向けて出荷される製品となるためです。製品の信頼に関わる最後の砦というわけです。
「組立作業のほとんどが手作業で複雑さもあるため、部品の組み間違いや微妙な誤差が時として生じます。それをいわば前提として、完成した製品1台1台について、異常がないかを確認し、必要に応じて修正や部品の交換などを行っていきます。製品にもよりますが、1台あたり2、3時間かけて検査することも珍しくありません」
洗車機は、水や洗剤などの液体と、ポンプなどを動かす電気が一つの製品のなかで共存する製品のため、ちょっとした部品の付け間違いで正常に作動しないばかりか、漏電事故などの危険もあります。だからこそ、慎重な検査が必要ですし、「明日の(検査を行う際の)自分が苦労しないように、組み立てながらも確認を行っています」と表情が引き締まる藤田さんです。
仲間と切磋琢磨し、効率を高めていく。
こだわりを活かせることが仕事の魅力。
月末になると、検査を待つ製品が工場内にずらりと並びます。自分たちですべて組み立てていることもあり、「大丈夫じゃないかな」といった気持ちになりがちなところを、意識してしっかり確認することが検査では大切であり、大変なところでもあると藤田さん。
「常に〝きっと間違えている。その間違いを探す〟といった感覚で見ることを大切にしています。実は、水の流れる方向を制御する弁が逆に付いているのに気づかず、稼働テストで水圧をかけ、壊してしまったことがあり……。それが大きな教訓になっていますし、後輩にも確認の大切さを伝えています」
藤田さんには今、仕事上で刺激を受ける後輩がいます。年齢は藤田さんより少し上で、経験もあることから仕事の吸収が早く、打てば響くような存在。学ぶ部分も多いのだそうです。
「切磋琢磨できる仲間がいることで、仕事への意欲もより湧いてきますね。手作業の現場だけに、それぞれの作業を突き詰めると効率アップが図れます。そうした視点を持ち、より働きやすい環境をつくっていきたいですね」
現場で意見を出し合い、力を合わせることで、製品の品質もより高めていきたい。手づくりならではのこだわりが活かせる仕事であることがいちばんの魅力。そう静かに語る口調には、熱い思いがにじんでいるようでした。
シゴトのフカボリ
機械製造スタッフ(洗車機の製造)の一日
8:00
出勤
8:25
ラジオ体操
8:30
場内朝礼(作業の確認など)、業務開始(組立作業、製品検査)
10:15
休憩
10:20
組立作業、製品検査
12:00
昼食・休憩
12:45
組立作業、製品検査
15:00
休憩
15:10
組立作業、製品検査
17:30
清掃、日報作成後、退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
テスターや社内で製作した検査治具
洗車機に組み込まれ、水や洗剤の噴射などを制御する電気回路の状態を確かめるために必須の道具です。製品検査は、抜き取り検査ではなく全数検査。組み立てたすべての製品の扉を開け、電圧や電流が正しいかどうかを測定していきます。そのほか、規定の水圧をかけても異常が生じないかの確認など、必要に応じて検査用の専用治具も社内で製作して、確実な検査に活用しています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

ものづくりの楽しさの究極は、自分の手で部品などに触れ、手の感覚でつくりあげていくことだと思います。当社の洗車機製造は、まさにその魅力にあふれています。難しさもありますが、日々、ワクワクできる仕事です。

アベテック株式会社

1968年に、洗車機や自動車整備機器の販売からスタートし、製造業へと転換。コインセルフ洗車場システムを日本でいち早く手がけたパイオニアです。

住所
(本社)北海道札幌市白石区中央1条5丁目3番7号
(工場)北海道石狩市新港西3丁目749番地8
TEL
(本社)011-842-0161
URL
https://www.av-tec.co.jp

お仕事データ

工場内で製品を生産。
製造工
製造工とは
製品の加工や組み立て、
メンテナンスなどものづくりに携わる仕事。

製造工は家電やパソコン、電子機器といった機械製品から、住宅用資材、紙、プラスチック用品、さらには施設の一部に使われる大型製品まで、多種多彩なものづくりに携わる仕事です。主に工場のライン作業によって各パーツを加工したり、部品を組み立てたり、さまざまな工程を経て一つの製品を完成させます。一方で、繊細な手作業によってものづくりを行う職場も少なくありません。「つくる」だけではなく、製品の最終検査や梱包・出荷、納品後のメンテナンスや修繕を担うこともあります。いずれの作業もものづくりの世界には欠かすことができませんが、未経験者にも門戸を開く企業が多いことからチャレンジしやすい仕事です。

製造工に向いてる人って?
「ものづくりが好き」で、
根気強さと注意深さを持っている人。

製造工には「ものづくりが好き」という気持ちが欠かせません。作業自体は決められたマニュアルやルールに沿うケースが多いことから、同じ作業をコツコツと続けられる根気強さも必要です。また、機械で加工した部品に不良がないかチェックしたり、製品の最終検査をしたりすることもあるため、注意深いタイプの人も向いているでしょう。

製造工なるためには

製造工になるために必要な資格はありません。多くの場合、工業系の高校や専門学校、短大・大学を卒業後、製造工場を持つ会社に就職するのが一般的です。知識やスキルは入社後の教育・研修によって身につけられるため、未経験からでも挑戦しやすい仕事といえるでしょう。職場や手がける製品によっては、後々「フォークリフト」や「玉掛け」などの資格取得をすすめられることがあります。

ワンポイントアドバイス
マルチスキルを持った製造工が
今後のカギを握る存在に!?

これまでの製造工は、一人が一つの持ち場だけを担当するケースが一般的でした。けれど、ここ最近は複数台の機械を操作できたり、多くの作業や工程を担える技術を身につけたり、マルチスキルを習得させる企業が増えているようです。そうすることで皆で仕事を分散して業務量を平準化できる他、チームワークや組織の柔軟性が高まるといわれています。今後はマルチスキルを持った製造工が会社のカギを握りそうです。